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サブリース契約「賃料減額」と「解約拒否」への対応

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サブリース2大トラブル 賃料減額と解約拒否への対応

サブリースは管理の手間がかからないことや、空室リスクに頭を抱えることなく、安定的に家賃収入を得られるメリットがある賃貸経営の方法のひとつです。 一方で予期せぬ家賃減額の条件変更を求められる等のトラブルも発生しています。

このようなトラブルを防止することを目的に、2020年12月15日、賃貸住宅管理業法の施行により、サブリース事業者に対する法的な規制がされることになりました。 本規制に伴い、サブリース事業者はサブリースで賃貸経営を行おうとする家主と契約する際には、サブリースの様々なリスクを説明することが義務付けられるようになりました。 これにより家主は、重要な事項について十分確認して契約することができるようになったのです。

しかしながら、本規制が制定される前に事業者と契約した家主の中には、サブリースのリスクについて十分に把握せずに契約をしてしまった方もおり、 トラブルに直面しているケースもあります。当会にもサブリースに係る以下の2つの相談が特に多く寄せられています

「サブリース賃料の減額を請求されたが、了承しなくてはならないのか!」
「サブリース事業者とのマスターリース契約を解約したいが解約を認めてくれない!」


当会では、法律の解釈を要するご相談に直接の回答をすることができませんが、ご相談の多いこの2つのサブリーストラブルについて、顧問弁護士の佐藤貴美弁護士監修のもと法律の建付け等をご紹介させていただきますのでご参考にしてください。 なお、実際の対応は個別のケースによりますので、弁護士等にご相談のうえ対応方法をご検討ください。

特定賃貸借契約(サブリース)での賃料減額請求権

(1)サブリースでも賃料の減額請求は認められる?

サブリース

サブリース物件を提供するに当たり、オーナーとサブリース事業者との間で締結される契約は「サブリース原賃貸借契約」や、 「マスターリース契約」と呼ばれたりしますが、賃貸住宅管理業法では、これを「特定賃貸借契約」と称します。

この特定賃貸借契約は「建物賃貸借契約」に当たり、サブリースのためのものであったとしても、借地借家法が適用されます。 借地借家法では、建物の賃料が土地や建物に対する租税その他の負担の増減や、近傍同種の建物の賃料に比較して不相当となったときは、 貸主または借主が相手方に対し、賃料の増減額を請求できるとされており(借地借家法32条1項)、これは特定賃貸借契約においても例外ではありません。

したがって、特定賃貸借契約においても、借主であるサブリース事業者がこの借地借家法の規定に基づき、 オーナーに対して賃料の減額を請求することは認められるということになります。


(2)賃料の減額をしない旨の特約をした場合の取扱いは?

サブリース

それでは、あらかじめ契約で契約期間中は賃料の減額はできないと定めておいた場合、それは有効な特約となるのでしょうか。 特定賃貸借契約も建物賃貸借契約であることから、その契約を普通建物賃貸借(期間満了後に契約の更新があるもの)として行う場合と 定期建物賃貸借(期間満了により契約が終了し更新がないもの)として行う場合とがあります。

特定賃貸借契約が普通建物賃貸借である場合には、賃料を減額しない旨の特約があったとしても、借主であるサブリース事業者は、 借地借家法に基づき賃料の減額を請求できます(借地借家法32条1項)。

一方、特定賃貸借契約が定期建物賃貸借である場合には、賃料の減額をしない旨の特約も有効とされますので(借地借家法38条7項)、 この場合には、契約であらかじめその旨を定めておけば、仮に借主であるサブリース事業者から賃料の減額請求をされても、 契約の定めに従いその請求を拒否できるので、契約期間中の賃料減額請求リスクを低減できます。

すなわち、特定賃貸借契約が普通建物賃貸借なのか、定期建物賃貸借なのかを確認し、後者であって特約で賃料の減額を否定していれば、 減額請求に応じる必要はありませんが、それ以外の場合には、借主であるサブリース事業者から賃料の減額請求は有効となりますので対応を検討する必要があります。


(3)減額請求がなされた場合の対応はどうしたらいい?
 ① まずは当事者間で話し合いを

サブリース

借主であるサブリース事業者から有効な賃料の減額請求がなされたとしても請求どおり応じなければならないわけではありません。 まずは当事者間で話し合いをし、減額の必要性や減額をするにしてもどの程度減額をするのかなどにつき合意を図ることになります。

ただし、当該請求に対し何もしないでいるとその請求どおりの賃料となってしまいますので、 すみやかに賃料の減額は認められない旨の通知をした上で話し合いを始める必要があることに注意してください。

なお、裁判所は事業用物件に関しサブリース事業者からオーナーに対し賃料減額請求がなされた事案につき、 借地借家法上の賃料減額請求権の規定の適用があるとしつつも、賃料減額請求の当否(所定の賃料増減請求権行使の要件を満たしているか)や 相当賃料額を判断する場合は衡平の見地に照らし、 契約締結に至る経緯や契約締結当初に賃料額を決定する際の事情などを十分に考慮すべきであるとの判断を示しました(最高裁平成15年10月21日判決)。

そして、この判断を踏まえ、金利や公租公課の負担の減少によりオーナーがメリットを得た部分は賃料減額に反映される一方で、 転貸料が下落したことに伴う損失はサブリース事業者が負担すべきとして、 転貸料下落部分に相当する賃料の減額までは認めないとした裁判例があるところです。 上記話し合いに際してはこのような裁判例も踏まえつつ、検討することになりましょう。

そして話し合いの結果、賃料の減額で合意する場合はいつから新しい賃料となるのかも定める必要があります。 一般的には合意時点以降の将来の賃料につき、新賃料額とすることが想定されますが、 もし過去に遡って(例えば減額請求があったときから)新賃料額を適用するとした場合には、 その期間中の差額分の返却や利息を付すかどうかなども決めておく必要があります。


(3)減額請求がなされた場合の対応はどうしたらいい?
 ② 調停及び裁判による解決

当事者間での話し合いがまとまらなかった場合、それでもサブリース事業者が賃料の減額を実現しようとするのであれば サブリース事業者が裁判所に調停を申し立てますので、今度は調停の場で調停委員会の仲介のもとで合意形成を図ることになります (なお、新賃料につき合意ができていないにもかかわらず、サブリース事業者が自らが主張している減額後の賃料額しか送金してこない場合には、 賃料の一部不払いということになりますので、賃料が減額されていないことの確認と不払分(減額相当分)の支払いを求めるため、 貸主側から調停を申し立てることも考えられます)。

そして、調停でも合意がなされなかったときには、最終的には裁判で減額の可否や減額の場合の相当賃料額が決定されることになります。

なお、最終的に減額を正当とする裁判が確定するまでの間、オーナーは借主であるサブリース事業者に対し、 「相当と認める額」の賃料を請求し、受領することができます。「相当と認める額」は客観的にも妥当な金額である必要があることから、 通常は契約で定めている賃料額(減額請求前の額)を請求等することになります。

ただし、最終的に裁判で減額後の賃料(例:月額80万円)が正当な賃料であるとなった場合には、 借主から賃料の減額請求がなされた時点からその賃料額(80万円)であったものと扱われますので、 契約で定めていた賃料(例:月額100万円)との差額分(例では月々20万)は貰いすぎということになり、 それぞれにつき受領のときから年1割に相当する利息を付して借主に返還しなければならないことに注意してください(借地借家法32条3項)。

サブリース原賃貸借契約の解約

(1)貸主から特定賃貸借契約を解約するための要件は?

サブリース

特定賃貸借契約は賃貸住宅管理業法や借地借家法のほか、民法の賃貸借の規定が適用されます。 民法では期間を定めている賃貸借の場合契約で当事者に解約をする権利を認めていなければ、契約期間中に解約を申し入れることはできないとしています(民法618条)。

また、借地借家法では貸主からの解約の申入れには正当の事由があると認められる場合に限ってすることができるとされています(借地借家法28条)。

この正当事由の有無は、
〇貸主と借主とが建物の使用を必要とする事情
〇建物の賃貸借に関する従前の経過
〇建物の利用状況や現況
〇これらを補充する要素としての財産上の給付の申出(いわゆる立退料の提供)
などが総合的に判断される
ところです(借地借家法28条)。

そして、このような正当事由を要することなく貸主から解約の申入れをすることができるといった特約は無効とされます(借地借家法30条)。

したがって、貸主から特定賃貸借契約を一方的に解約しようとする場合には、契約で貸主から解約する権利が認められていること、正当事由があることの2つの要件を満たす必要があります。 仮に契約で「いつでも解約できる」などと定められていたとしても、これは上記の2つの要件のうちの前者を満たしているに過ぎませんので、 争いとなったときは後者の要件である正当事由を満たしているかが問われることに注意が必要です。


(2)契約期間満了時に更新をしないことは可能か?

サブリース

このように契約期間中に貸主から一方的に特定賃貸借契約を解約しようとしても、正当事由の存在が必要とされ、そのハードルは高いところです。 それでは、契約期間の満了時に更新をしないことによって、特定賃貸借契約を終了させることは可能なのでしょうか。

特定賃貸借契約も建物賃貸借契約であることから、その契約を普通建物賃貸借として行う場合と定期建物賃貸借として行う場合があります。 特定賃貸借契約が普通建物賃貸借である場合には期間の満了に当たって、貸主から更新を拒絶しようとする場合には、 解約申し入れのときと同様に正当事由が必要となります(借地借家法28条)。さらに手続き上、期間満了の6か月前までに更新しない旨の通知をすることや、 期間満了時に借主が物件の利用を継続しているときには遅滞なく異議を述べることが求められます(借地借家法26条)。

したがって、特定賃貸借契約が普通建物賃貸借である場合には、期間満了時に契約を終了させることは契約期間中の解約申し入れと同様のハードルの高さであるといえましょう。


一方、特定賃貸借契約が定期建物賃貸借である場合には、期間の満了により契約は終了し、 更新はありません(借地借家法38条1項)。同一当事者間で契約を継続させるためには、改めて契約をする(再契約をする)ことが必要ですが、 再契約をするかしないかは当事者の任意です(貸主も再契約をしないという選択をするに当たって、正当事由の存在などは不要です)。

したがって、特定賃貸借契約が定期建物賃貸借である場合には、期間の満了をもって終了させることは容易であるということになります。


(3)実際に解約するため対応はどうしたらよいか?

サブリース

貸主が特定賃貸借契約を終了させようとする場合には、それが定期建物賃貸借で契約期間が長期に設定されていないような場合には、 期間の満了を待つことが簡便かつ現実的です。

一方、それが普通建物賃貸借である場合や定期建物賃貸借でも契約期間が長期に設定されていて期間の満了まで 待てないような場合には、解約申入れや更新拒絶に係る正当事由があるかを十分に検討のうえ対応することが必要となります。

したがって、まずは話し合いにより合意でもって契約を終了すること(合意解約)を検討することが現実的でしょう。ただし合意解約の場合には、正当事由は不要ですが、 合意に当たって一定の条件(違約金の支払いなど)が付される可能性があることに留意してください。


もし合意解約ができないときは、調停や裁判によって、解約申し入れや更新拒否による契約の終了を求めることになります。 正当事由の存在など、専門家等の意見も踏まえ、十分に検討し、準備をすることが大切でしょう。

解説弁護士プロフィール

弁護士 佐藤 貴美

佐藤貴美法律事務所弁護士。総理府(現在の内閣府)入省、建設省、総務庁、公害等調整委員会等に出向を経て内閣府を退官。2002年弁護士登録。 賃貸住宅標準契約書改訂及び再改定委員会副座長、建物賃貸借における残置物処理に関する研究会委員など、賃貸住宅に係る国の検討会委員を歴任。

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