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賃貸住宅トラブルQ&A

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このページでは国土交通省の賃貸借トラブルに係る相談対応研究会において、
民間賃貸住宅に関するよくある相談内容をQ&A形式に取りまとめたものを一部抜粋し、紹介しております。

※あくまで例を示すものであり、法的な見解を示すものではないことにご留意頂いた上でご活用ください。

各質問の

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をクリック頂くと、各質問に対する回答をご覧頂けます。

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【入居前に関する Q&A】

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契約

契約解除等

【入居中に関する Q&A】

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更新

家賃

修繕・改善

管理

所有者や管理会社の変更

【退去時に関する Q&A】

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原状回復

退去の告知等

①契約金の一時金(敷金・礼金・仲介手数料等)

敷金

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賃貸借契約締結に当たって、敷金を支払う義務はあるか。

敷金の預け入れが契約条件となっている場合には、支払いが必要と考えられます。

【解説】
(1)意義
「敷金(「保証金」と呼ばれる場合もあります)」とは、借主の賃料の滞納や、不注意による賃借物に対する損傷・破損等に対する費用等、賃貸借契約から生じる一切の債務を担保するためのものと考えられています。
したがって、明渡しのときに、借主の債務を支払った残りは返金されると考えられます。なお、本定義以外のものを「敷金」と名付けている場合もありますので、契約に当たっては、その内容を十分確認してください。

「Qその他の一時金」をご参照下さい。

(2)支払義務
契約は、貸主と借主の合意が原則となります。敷金は、全国的に行われている慣習となっており、国土交通省「賃貸住宅標準契約書」においても、敷金は本条の中で規定しています。敷金の預け入れを貸主が賃貸借契約成立の条件として提示した場合には、当該貸主と契約するためには敷金を預け入れる必要があることになります。

<参考>
(敷金)
第6条 乙は、本契約から生じる債務の担保として、頭書(3)に記載する敷金を甲に預け入れるものとする。
2 乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって賃料、共益費その他の債務と相殺をすることができない。
3 甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額を無利息で乙に返還しなければならない。ただし、甲は、本物件の明渡し時に、賃料の滞納、第14条に規定する原状回復に要する費用の未払いその他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、当該債務の額を敷金から差し引くことができる。
4 前項ただし書の場合には、甲は、敷金から差し引く債務の額の内訳を乙に明示しなければならない。
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

その他の一時金

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賃貸借契約締結に当たって、敷金以外の一時金(礼金等)を支払う義務はあるか。

敷金以外の一時金は、地域の習慣として行われており、様々な名称や金額のものがあります。それらの一時金の支払いが契約条件となっており、これを合意した場合には、支払う必要があります。

【解説】
契約時の一時金のあり方は各地域で様々ですが、大きく3つのパターンに分けられるとされています。
( )内は多くみられる名称です。

 ①明渡し時に、借主の債務不履行がない限り、全額、借主に返金されるもの(敷金)
 ②後日、借主に返還しないもの(礼金、権利金等)
 ③明渡し時に、借主の債務のいかんにかかわらず一定の額を控除し(償却、敷引)、さらに借主の
  債務不履行があった場合はその債務額を控除した上で返還するもの(敷金、保証金)
※敷金等を返還しない旨の特約(※参考1)の有効性について、裁判例は分かれていましたが、平成23年3月に出された最高裁判例は、居住用建物の賃貸借契約における敷金(保証金)の一部を償却する条項(敷引特約)の有効性について判断しており、注目されています。

「Q敷金の一部を返還しない旨の特約」をご参照下さい

いずれの場合においても、その内容を良く理解し、契約を締結することが大切であるといえます。

※参考1
このような特約は大阪や兵庫等の関西地方において「敷引特約」として多くみられるといわれています。

敷金の一部を返還しない旨の特約

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契約時に敷金を2ヶ月分、支払った。退去時に1ヶ月分は必ず差し引かれ、残りの1ヶ月分から修繕が必要となった場合の経費を控除し、残りを返金するといわれた。自分が特に破損等しなかった場合、全額返金してもらえないのか。

各地域の商習慣によって、敷金から一定金額を控除する特約がある場合もあり(例えば償却特約や敷引特約と呼ばれることもあります)、一般的には有効であると解されています。

【解説】
これまでは特約自体に違法性がある訳ではなく、当該契約の有効性について下級審判例の判断は分かれていました。※参考1
しかし、平成23年3月に出された最高裁判例は、居住用建物の賃貸借契約における敷金(保証金)の一 部を償却する条項(敷引特約)の有効性について、建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定 される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額に照らし、敷引金の額が高額に過ぎる と評価すべきものである場合は、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど 特段の事情がない限り、消費者契約法10条により無効となるという規範を示しつつ、契約締結から明渡 しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するという本判例で問題となっ た特約について、敷引金の額が契約の経過年数や本件建物の場所、専有面積等に照らし、本件建物に生 ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまでは言えないと判示した点 で注目されています。本判例の判断に照らせば、上記のように1ヶ月分程度の敷引を定めた特約であれ ば、特約自体は有効であると解されることになると考えられます。※参考2

※参考1
敷引特約を有効と認めた裁判例として、大阪地判平成7年2月27日、神戸地判平成7年8月8日(判時1542号94頁)、大阪地裁平成17年4月20日(同判決は、敷引額が適正額の範囲内では当該特約は有効であり、その適正額を超える部分については無効となると判示しています)等。一方、敷引特約を無効としたものとして、神戸地判平成17年7月14日(判時1901号87頁)、京都地判平成19年4月20日等があります。
※参考2
最判平成23年3月24日。事案の概要と判決の要旨については参考資料「10.最近の最高裁判例4)事例3」参照。

仲介手数料

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不動産仲介会社の仲介により賃貸借契約を締結した場合、仲介手数料を支払う義務はあるか。

賃貸借契約が成立した場合には、貸主・借主の双方あるいは一方から、不動産仲介会社に対して成功報酬として仲介手数料を支払う必要があります。

【解説】
(1)意義
「仲介手数料」とは、不動産仲介会社を通して物件の賃貸借契約を締結した場合に、契約を仲介した不動産仲介会社に支払う手数料(報酬)のことです。

(2)支払義務
不動産の賃貸借の仲介では、賃貸借契約が成立したときに不動産仲介会社の仲介手数料の請求権が発生するので(いわゆる「成功報酬」。一般媒介契約約款8条、商法550条参照)、賃貸借契約が成立した場合には、契約当事者(貸主・借主双方)は仲介手数料を支払う必要があります。

(3)金額の妥当性
仲介手数料の額については、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」という)46条1項を受けた国土交通大臣の告示が上限を定めています。
居住用建物の賃貸借契約の媒介の場合、不動産仲介会社は貸主・借主の双方からそれぞれ賃料の0.5ヶ月分(税別)以内の報酬を受けることができます。ただし、依頼者の承諾がある場合には、貸主・借主のいずれか一方から賃料の1.00ヶ月分(税別)以内を受領することができます(この場合も仲介手数料の合計額は賃料の1.00ヶ月分(税別)を超えることができません)。
例えば、貸主・借主双方が折半して0.5ヶ月分(税別)ずつ負担することもあります。

②家賃支払い

家賃支払いの開始時期

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入居前に家賃の支払義務は発生するのか。

基本的には契約期間の開始日から支払義務が生じると考えられます。

【解説】
賃料とは、物件を使用することの対価として支払うものであり、物件が入居可能な状態になっていれば、契約開始日から支払義務は生じると考えられます。なお、物件にまだ前入居者がいたり、リフォーム前であったりする等、入居できる状態にない場合は、入居が可能となる日を始期とすると良いでしょう。

<参考>
(頭書)
(2)契約期間
始期  年 月 日から  年 月間
終期  年 月 日まで
[記載要領]
「始期」――契約をする日と入居が可能となる日とが異なる場合には、入居が可能となる日を記入してください。
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

入居前の家賃支払い

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気に入った物件があり、契約したら、翌日を契約始期とされ、賃料を払うようにいわれた。すぐには引っ越しの手配もできないし、自分の事情ですぐに入居することができない。入居していないのに、家賃を支払わなければならないのか。

基本的には、物件が入居可能な状態である場合、入居の有無にかかわらず、契約日以降は家賃の支払義務が生じます。事情を説明し、始期について相談してみる余地はあると思われますが、支払いを求められれば基本的に支払義務はあると考えられます。

【解説】
「Q家賃支払いの開始時期」の通りです。

家賃支払方法の指定

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賃貸借契約締結に当たって、家賃の支払方法を指定された。従う義務はあるか。

賃貸借契約はあくまでも貸主と借主の合意が原則となります。契約条件となっている場合、当該物件の賃貸借契約を締結するためには、その家賃の支払方法に従わなければならないと考えられます。

【解説】
家賃の支払方法は、賃貸借契約の履行方法についての当事者の合意となり、契約自由の原則によって、債務の履行方法に関する合意も有効であると考えられます。
したがって、現金持参、口座振込みといった家賃の支払方法に関して合意をしている場合は、当該方法に拘束されます。

クレジットカードによる家賃支払い

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入居するためには、クレジットカードを申し込み、そのクレジットカード払いでしか家賃支払いを受け付けられないといわれた。必ずクレジットカードに加入する必要があるか。また、カード手数料を負担しなければならないか。

賃貸借契約はあくまでも貸主と借主の合意が原則となります。契約条件となっている場合、当該物件の賃貸借契約を締結するためには、クレジットカードに申し込み、その手数料は、賃料債務支払のための費用として借主が負担しなければならないと考えられます。

【解説】
「Q家賃支払方法の指定」の通りです。
手数料について、債務の弁済のための費用は、特段の意思表示がない限り債務者が負担することとなります(民法485条)。したがって、カード手数料についても、借主が負担しなければならないと考えられます。なお銀行振込による場合であっても、振込手数料は借主負担となっていることが一般的です。

③保証

連帯保証人

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賃貸借契約の締結に当たって、連帯保証人を立てる必要はあるか。

連帯保証人を求めることは実務上広く行われており、借主が連帯保証人を立てることが契約条件となっている場合には、連帯保証人を立てる必要があります。

【解説】
賃貸契約から生じる借主の債務を担保するものの1つとして敷金がありますが、連帯保証人も借主の債務(例えば家賃支払債務、何らかの故意過失による損害の賠償支払債務等)を貸主が担保するための手段として理解されています。
連帯保証人は、借主本人と同等の責任を負うことになります(民法452条、453条、454条、458条等)。
なお、似たものとして「保証人」があります。保証人は連帯保証人と異なり、以下の2つの権利を有しています。
①保証債務の履行を求められた時は、貸主はまず借主に履行せよと主張し、貸主がそれをしない間は保証債務の履行を拒否できる権利
②貸主がとりあえずは借主に催告をした場合であっても、借主が債務を弁済するだけの資力があり、かつ、簡単に執行できる場合であれば、まず借主の財産に執行するよう要求し、貸主がそれを行わない間は履行を拒否できる権利

<参考>
(連帯保証人)
第16条 連帯保証人は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

保証会社との契約

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賃貸借契約の締結に当たって、保証会社と契約することが条件であるといわれた。保証会社との契約は必要か。

保証会社との家賃債務保証委託契約が契約締結の条件となっている場合、保証会社との契約は必要であると考えられます。

【解説】
「(家賃債務)保証会社」とは、一般に借主の債務を保証する会社です。近年、連帯保証人を確保することが難しいことも増えてきているため、利用するケースがあります。保証会社と契約することにより、保証会社が保証債務を引き受け、かわりに借主は保証会社に対して保証料を支払うことになります。
万が一、家賃滞納が発生した場合は、保証会社が貸主へ滞納家賃を立て替えて支払います。したがって、借主は、保証会社から滞納家賃の支払請求(求償)をうけることになります。
連帯保証人にかわって保証債務を引受けますので、保証会社と契約している場合には、連帯保証人は不要とされることが比較的多いようです。

連帯保証人を立てた上での保証会社との契約

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気に入った物件で契約しようとしたら、連帯保証人を立て、さらに保証会社と契約しなくてはならないといわれた。従う必要はあるか。

賃貸借契約はあくまでも貸主と借主の合意が原則となります。契約条件として示されている場合、当該物件を賃貸借契約するためには、保証会社と契約する必要があると考えられます。

【解説】
貸主がリスク低減のため、連帯保証人がいる場合でも保証会社の保証を条件とする賃貸物件もあるようです。

④保険加入

保険への加入義務

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賃貸借契約の締結に当たって、保険への加入義務はあるか。

保険の加入が契約条件となっている場合には加入する必要があると考えられます。

【解説】
法令によって強制されているものではありませんが、契約条件として保険への加入が義務づけられている場合、原則としてこれを受け入れることを前提に契約を締結することになります。
多くの場合、加入が義務づけられているのは、住宅総合保険であり、貸主の所有物である建物のほか、借主の所有物である家財に対しても補償されることが多いと考えられます。また、火災や水害の場合の補償だけでなく、借主が自らの瑕疵で水漏れ事故をおこしてしまった場合の補償や、その事故によって隣人や貸主に損害を与えた場合の損害賠償補償等が含まれることも多いです。保険の内容を良く理解し、加入すると良いと考えられます。

保険の種類の選択

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息子が大学に入学する際に加入した共済保険は、火災や個人賠償にも対応できる。しかし、部屋を借りるには、不動産仲介会社が指定する保険会社の住宅総合保険に加入しなければならないといわれた。従わなければならないか。

基本的に、保険には加入しなければならないと考えられます。保険会社の指定に従う必要があるかどうかは、まず、加入している共済保険の内容と、指定された保険の内容を十分に比較した上で、不動産仲介会社と相談するのが良いと考えられます。

【解説】
「Q保険への加入義務」の通りです。保険への加入義務はあるといえます。最終的に契約は貸主、借主の合意によると考えられます。

⑤重要事項説明

重要事項説明義務

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不動産仲介会社が行った説明と物件の状態が全く異なっていた。不動産仲介会社に責任はないのか。

不動産仲介会社は、宅地建物取引業者として、借主になろうとする者に対して重要事項を説明する義務を宅建業法上負っています。これに違反する行為は、行政処分の対象となる可能性があるほか、事情によっては損害賠償責任を負ったり、悪質な場合には刑事罰が科せられたりする可能性もあります。

【解説】
宅地建物取引業者は、宅地建物取引業法35条1項の規定により、宅地建物の売買・貸借の当事者に対して重要事項の説明をする義務を負っています。説明義務の範囲としては、当事者にとって重要な事項は全部説明しなければならず、宅地建物取引業者が記名・押印した書面を交付することも必要とされています(同条2項、3項)。
宅建業者がかかる義務に違反した場合には、宅建業法上、指示処分や1年以内の業務停止処分等の行政処分(同法65条)、情状が特に重い場合には免許の取消処分(同法66条)がなされることがあります。また、重要な事実を故意に告げなかった場合には、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(同法79条の2)の対象となります。
なお、不当景品類及び不当表示防止法4条1項(不当な表示の禁止)に該当する場合、内閣総理大臣より当該事業者に対し、措置命令(同法6条)等の行政処分がなされる可能性があります。

「Q入居条件の不履行による解約」をご参照下さい。

参考
○宅地建物取引業法32条(誇大広告等の禁止)、47条1号(業務に関する禁止事項)に該当する場合、罰則が科される可能性があります(同法79条の2、81条1号)。
○不当景品類及び不当表示防止法4条1項(不当な表示の禁止)に該当する場合、内閣総理大臣より当該事業者に対し、措置命令(同法6条)等の行政処分がなされる可能性があります。
○不動産公正取引協議会連合会に属している不動産業者の場合、不動産の表示に関する公正競争規約23条 「物件の形質(24) 宅地、建物、これらに付属する施設、造成工事、建築工事等に関する等級その他の規格・格付けについて、実際のものよりも優良であると誤認されるおそれのある表示」に該当する場合、不動産公正取引協議会連合会の公正取引協議会より罰則が科される可能性があります(同規約27条1項)。

不動産広告掲載事項の不設置

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不動産仲介業者のチラシに、IHクッキングヒーター設置と記載してあった。火災が怖いため、IHクッキングヒーターにこだわって物件を探しており、入居を決めたが、実際にはガスコンロであった。どうすれば良いか。

不動産仲介会社が説明義務違反となる可能性があります。また、「IHクッキングヒーター」が備え付けられていることが借主にとってどのような意義を有していたかによって債務不履行による解除や損害賠償、消費者契約法に基づく取消等が考えられますから、よく事実関係や経緯を確認すると良いでしょう。

【解説】
(1)重要事項説明義務(宅地建物取引業法35条1項)
「Q重要事項説明義務」の通りです。

(2)不実の告知について
借主としてどのような対応を取ることができるかを検討するに際し、借主が賃貸借契約時にどこまでIHにこだわっていることを伝えたか(IHの物件でないと契約しなかったのか等)、きちんと不動産仲介業者に伝わっていることを確認したか、物件説明の際にきちんと確認したか、どういう形の書面を貰ったか等、事実関係や経緯を確認する必要があります。仮に「IHクッキングヒーター」つきの部屋を紹介することが不動産仲介会社の債務となっていた場合には、債務不履行に基づく解除(民法541条)や損害賠償請求(同415条)、賃料の値引き交渉等を行うことも考えられます。逆にチラシに小さく表示があるのみであったり、他の設備と並んでIHクッキングヒーターの記載があったりした場合で、相談者から不動産仲介業者に対してIHクッキングヒーターについて何ら言及がなかったような場合にまで、債務不履行責任が問えるかについては判断が分かれるものと思われます。
なお、貸主が「IHクッキングヒーター」が備え付けられていないにもかかわらず、これと異なる事実を告げて賃貸借契約を締結した場合には、借主は不実の告知を理由として契約の取消を主張することが考えられます(消費者契約法4条1項1号)。
IHクッキングヒーターが備え付けられていないことが「重要事項」(同号)に当たるかどうかは、ケースバイケースですが、例えば、IHクッキングヒーターであることを売りにしたチラシ等で契約をさせた場合であれば、業者側に問題があることが多いといえるでしょう。

⑥入居前のキャンセル

契約成立前のキャンセル

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契約前であるが、キャンセルは可能か。

契約成立前であればキャンセルすることは問題ありません。ただし、いつの時点で契約が成立したと判断できるかは難しいことがありますので、まずは速やかにキャンセルしたい旨を貸主に申し出て、話し合う必要があると考えられます。

【解説】
(1)契約の成立の前後による違い
賃貸借契約による拘束力が生じ、契約で定めた事項を守る義務が生じるのは、契約が有効に成立した後です。契約が成立した後は、借主には家賃の支払義務等が発生し、解約あるいは解除しない限り契約関係からの離脱は原則として認められません。(契約成立後の解除については「①退去の事前告知」をご参照下さい)
一方、契約が成立する前であれば当事者は拘束されないため、契約上の義務を負う必要はなく、原則として関係を終了させることができます。※参考1

(2)賃貸借契約の成立時期
賃貸借契約は、諾成契約(契約書面を作成しなくても、口頭で合意するだけで成立する契約)であり、双方が合意に至ったときに契約が成立しますが、実務では、不動産賃貸借の重要性に鑑みて、合意した内容を明らかにしておくために詳細な契約書面が作成されるのが通常です。
実際に契約交渉過程のいつの時点で双方の合意が成立したかについては、具体的な事情を基に個別に判断されます。※参考2

※参考1
契約が成立しなかった場合であっても、契約準備段階で、一方の当事者が相手方に対して契約が締結されるであろうという信頼を与えている場合には、信義則上、信頼を裏切らないように行為する義務を負うものとされています。そして、その義務に反して契約を不成立とした場合には、信頼を生じさせたことによる賠償責任を負担するとされています。
※参考2
宅地建物取引業者が媒介した場合には、宅地建物取引業者は契約条項を記載した書面を作成して当事者に交付することが義務付けられています(宅建業法35条2項)ので、不動産仲介業者を介して賃貸借契約を締結した場合には、契約書が交付されます。

申し込み後のキャンセル

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息子の大学入学のため、賃貸住宅を借りようと、申込書に記入し、「申込金」として、1万円を支払った。しかし、その後、地元の大学に合格したため、キャンセルしたいができるか。

キャンセルできます。また、契約成立前に不動産業者から要求されて支払った申込金は、預かり金として返還を請求することができます。

【解説】
賃貸借契約を申し込む際、不動産業者から、申込金あるいは頭金・預かり金・手付金等の名目で金員の支払いを要求される場合があります。
その場合、契約成立前に支払われた当該金員は、預かり金とみなされ、入居希望者がキャンセルする場合、不動産業者は預かり金を返還しなければなりません(宅建業法47条の2第3項、国土交通省令及び同法施行規則16条の12第2号)。

⑦契約後の契約解除

契約締結後の契約解除

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賃貸借契約後、契約期間終了前に借主の側から解約することができるか。

解約権を留保している場合は解約することができます。解約権が留保されていない場合は貸主と合意することが必要です。

【解説】
(1)解約権を留保している場合
解約権を留保している場合、特段の理由なく解約を申し出ることができます。

<参考>
(乙からの解約)
第11条 乙は、甲に対して少なくとも30日前に解約の申入れを行うことにより、本契約を解約することができる。
2 前項の規定にかかわらず、乙は、解約申入れの日から30日分の賃料(本契約の解約後の賃料相当額を含む。)を甲に支払うことにより、解約申入れの日から起算して30日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

(2)解約権を留保していない場合
解約権が留保されていない場合、一方の当事者からの勝手な契約破棄はできないことになります。そこで、貸主に事情を説明し、契約を解消する合意を得ることになります。

入居者都合による解約

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賃貸住宅を契約したものの、まだ入居もしていなかったが、急な転勤が決まったため、解約したいが可能か。

解約できます。なお、契約成立後から解約までの家賃は支払う必要があります。

【解説】
「Q契約締結後の契約解除」の通りです。

定期借家契約と契約解除

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定期借家契約の物件に契約後、解約できるか。

解約権留保の特約があれば特約により、また、特約がなくとも転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情により、借主が当該物件を使用することが困難となった場合は、解約申入れから1ヶ月後に解約できます。

【解説】
(1)定期借家契約の意義
定期借家契約(借地借家法38条)とは、契約で定めた期間の満了により、更新されることなく確定的に終了する賃貸借契約のことをいいます(通常の賃貸借契約では、正当の事由がない限り、貸主からの更新拒絶はできないとされています)。

(2)原則
このように期間の定めのある契約である定期借家契約においては、解約権を留保する特約を定めている場合(民法618条参照)か、借地借家法38条5項の定める場合に解約が認められます。
解約権を留保する特約がある場合、特約によって借主からの解約を認めることができます。ただし、借地借家法38条5項よりも長い申入れ期間を設ける等、借主に不利な特約は無効となります(同条6項)。
借地借家法38条5項は、居住の用に供する建物でその床面積が200平方メートル未満のものについては、転勤、療養、親族の介護等、やむを得ない事情により借主が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難な場合には、1ヶ月前に申入れを行うことにより解約することができると定めています。

<参考>
(乙からの解約)
第11条 乙は、甲に対して少なくとも30日前に解約の申入れを行うことにより、本契約を解約することができる。
2 前項の規定にかかわらず、乙は、解約申入れの日から30日分の賃料(本契約の解約後の賃料相当額を含む。)を甲に支払うことにより、解約申入れの日から起算して30日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。
資料)国土交通省「定期賃貸住宅標準契約書」

定期借家契約と契約解除

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定期借家契約について2年間の契約をしていた。まだ入居2ヶ月であるが、突然、転勤が決まり、引っ越すこととなった。中途解約を申入れたが、2年間の定期契約であり、途中解約はできないといわれた。後22ヶ月分の家賃を支払わねばならないのか。

借りた建物の床面積が200㎡未満である場合には、解約の申入れから1ヶ月後に解約できます。

【解説】
「Q定期借家契約と契約解除」の通りです。
たとえ中途解約を禁ずるような特約があったとしても、転勤というやむを得ない事情で、借主は当該物件を使用しないのであれば、解約できると考えられます。

⑧更新の定義

更新の定義

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賃貸借契約の期間満了時に行われる更新について、教えて欲しい。

期間満了後に賃貸借契約を引き続き存続させるための手続きです。更新には当事者間の合意に基づく更新(合意更新)と、借地借家法の規定による更新(法定更新)があります。

【解説】
(1)原則
期間を定めた賃貸借契約は、原則として期間満了時に終了しますが、借家契約の場合には終了に際して、以下の制約があります。
 ① 期間を1年未満とする建物の賃貸借は、原則として期間の定めがない賃貸借とみなされ(借地借家法29条1項)、貸主が解約申入れをしない限り契約は終了しません(民法617条1項)。解約申入れをする場合でも、さらに貸主自身が建物の使用を必要とする等の、解約することが正当と認められるだけの理由(正当事由)が必要です(借地借家法28条)。
 ② 期間が1年以上である建物の賃貸借を終了させる場合にも、更新をしない旨の通知をすること、及び更新をしないということが正当と認められるだけの理由(正当事由)があることが必要です(詳細は後述(3))。
 ③ 定期借家契約(借地借家法38条1項)の場合には、期間満了時に終了します。
 ④ 土地区画整理法等の法令、または当事者間の合意により取り壊す予定の建物の賃貸借については、取り壊す時に終了します(借地借家法39条1項)。

(2)合意更新
当事者間の合意に基づく合意更新には法的な制約はありません。借主と貸主の間で賃貸借契約の継続についての合意があれば、当事者の意思に基づいて継続します。
賃貸借契約の継続の合意に向けて、借主と貸主の間で協議がなされる場合、その協議内容には、更新後の契約条件の変更も含まれます。この協議が整わず、合意が成立しなかった場合、法定更新による更新が考えられます。

(3)法定更新
貸主が契約期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に借主に対して更新をしない旨の通知または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知を行っていない場合、通知を行っている場合でも更新をしないということが正当と認められるだけの理由(正当事由)がない場合は、当事者間の合意がなくとも同一の賃貸借契約が引き続き存続します(借地借家法26条1項)。ただし、契約期間については、期間の定めの無い契約となります。
正当事由については、①借主の事情(借主が建物の使用を必要とする事情)、②貸主の事情(貸主が建物の使用を必要とする事情)、③建物の賃貸借に関する従前の経過、④建物の利用状況、⑤建物の現況、⑥立退料を総合的に考慮してその存否が判定されます。

更新拒否

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貸主から更新を拒否された。住み続けたいが退去しなければならないか。

法定更新の要件が満たされていれば、退去する必要はないと考えられます。

【解説】
「Q更新の定義」の通りです。

合意のない契約内容変更

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ペットを飼いたかったので、ペット禁止でない物件を探し住んでいた。今回、更新となり、送られてきた新しい契約書をみたら、突然ペット禁止特約が追加されていた。住み続けることはできないか。

合意による更新は基本的には貸主と借主の合意の上となります。特約の追加について、説明を求め、良く話し合うことが大切であると考えられます。
なお、法定更新は、賃貸期間を除き、従前の契約条件によることになりますが、生活上のルールのことは良く話し合うことが大切です。

【解説】
貸主から、契約条件変更の通知があり、借主がこれに応じるか、明確に拒絶しなかった場合には、提示された条件で賃貸借が更新されます。
更新は、貸主、借主の合意が原則となりますので、条件に応じたくない場合は、貸主と良く話し合う必要があります。
本件の場合、ペットの飼い方等で貸主や近隣住民等に迷惑をかけていないか等、良く事情を話し合い、今後の対応について相談することが大切であると考えられます。

⑨更新料

更新料の支払義務

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更新に当たって更新料の支払いを求められたが、支払う義務はあるか。

更新料の支払義務については、これまで法的な見解が分かれていましたが、平成23年7月15日に最高裁判所による判決が出され、更新料支払条項の有効性については、特段の事情がない限り、有効であると判断されました。

【解説】
「更新料」については、法令上根拠となる規定がなく、必ずしも全国的な慣行でもないことから、国土交通省の賃貸住宅標準契約書においては記載がありません。
更新料の法的な性質については、裁判所の判断も分かれていましたが、平成23年7月15日に出された最高裁判所判決では、更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎる等の特段の事情がない限り有効であるとの判断を示しました。
※参考1
法的な見解としては明確な判断が示されましたが、当該地域の慣習や更新料の相場と比べて著しく乖離していないか、更新料の支払以外の点について当事者にトラブルの原因がないか、といったことを考慮しつつ、貸主と相談をすることが重要であることに変わりはありません。どうしても折り合いが 付かない場合には、調停等を申し立てることも考えられます。

※参考1
最判平成23年7月15日。事案の概要と判決の要旨については参考資料「10.最近の最高裁判 例 5) 事例4」参照。

⑩家賃の滞納

家賃滞納の場合の支払猶予

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家賃を滞納しているが、どのくらい支払いを猶予してもらえるか。

家賃の滞納は契約に違反する行為であり、家賃滞納により借主との信頼関係が破壊されたといえる場合には、賃貸借契約が解除され明渡し請求を受ける場合があります。どの位の期間滞納したら信頼関係が破壊されるのかという点については、個別事情によりますので、一概にいえません。

【解説】
信頼関係が破壊されたか否かは、賃料不払いの程度、賃料不払いに至る事情、過去の賃料支払状況、解除の意思表示後の借主の対応等を総合的に考慮して判断がなされています。
賃料不払いという債務不履行による解除のためには、債務不履行解除の一般原則を定めた民法541条が要求する、①相当の期間を定めた催告、②借主がその期間内に賃料の支払をしないこと、③解除の意思表示が必要です。
ただし、判例は、賃貸借契約が長期間継続する契約類型であることから、④貸主と借主の信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があることを借主が立証した場合には解除を認めないという、いわゆる「信頼関係破壊の法理」といわれる判例理論を確立させ、解除要件を厳格化しています。
一方で、当事者の一方が相互の信頼関係を裏切って賃貸借の継続を著しく困難にするような背信行為があった場合には、催告なしに契約解除できるとして解除要件を緩和しています。

家賃滞納による即時退去特約

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賃貸借契約書中に「家賃滞納があった場合には即時退去する」旨の条項がある。急に派遣契約が打ち切りとなり、初めて家賃滞納してしまったが、当該条項どおり即時退去しなくてはならないか。

家賃滞納等一定の場合に無催告解除を可能とする特約があった場合であっても、信頼関係が破壊されていない限り、催告が必要です。ただし、催告がなくても、まずは、速やかに支払いの意思を示すことが必要であると思われます。

【解説】
滞納があった場合には、即時退去する旨の特約は、賃貸借契約書中に催告なしで解除できるといういわゆる無催告解除の特約がある場合に当たります。
無催告解除特約に基づく無催告解除の有効性については、個々の事案ごとに、催告なしに解除しても不合理とは認められない事情が存在するかどうかで判断すべきとされています(最判昭和43年11月21日判時542号48頁)。

家賃滞納の場合の分割払いの可否

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既に滞納した家賃について、分割払いに応じてもらうことはできるか。

貸主に分割払いに応じる法律上の義務がある訳ではありません。貸主と相談することが大切であると考えられます。

【解説】
本来は契約に定められた通り賃料を支払う必要があります。貸主に、滞納となった事情、支払う意思があり、分割払いであれば支払えることや(支払再開の見込みがあれば)支払再開の見込み等を説明し、十分に相談し、理解を得ることが大切であると考えられます。

遅延損害金の定め

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契約書には家賃滞納の場合14.6%の遅延損害金が発生する旨の記載がある。支払義務はあるか。

上記記載は家賃滞納の場合の遅延損害金の特約として有効です。また、消費者契約法上の遅延損害金の上限額にも抵触していないため、原則として支払う必要があります。

【解説】
(1)原則
賃料支払が遅れた場合には、貸主は借主に対して損害賠償請求権を有します(民法415条前段)。そして、賃料支払債務は金銭債務ですから、不可抗力であっても損害賠償義務を免れることはできません(同419条3項)。
損害賠償の額については、特約が無い場合は、法定利率(ほとんどの場合、商行為として年率6%(商法502条1号、514条))により計算した額になり、特約がある場合には、その特約に従います(民法419条1項)。

(2)消費者契約法
消費者と事業者間の情報力・交渉力の格差を是正し、消費者契約における契約締結過程及び契約条項の適正を帰すという趣旨から、消費者契約法が定められています。同法によれば、当事者間で説明の上合意がなされた場合であっても不合理な内容の契約条項はその有効性が認められないとされます。
賃貸借契約の場合、貸主が個人の場合であっても、所有する不動産を継続して賃貸することは事業に該当するので、貸主は事業者に当たります。また、居住用に賃借する借主個人は消費者に当たります。そこで、消費者契約法が成立した平成13年4月1日以降に締結された建物賃貸借契約には同法の適用があります。
遅延損害金については、支払滞納額の14.6%という上限が定められており、それを超えた合意は無効となります(消費者契約法9条2号)。

参考:消費者契約法の適用について
(1)意義
消費者契約法は、消費者と事業者間の情報力・交渉力の格差を是正し、消費者契約における契約締結過程及び契約条項の適正を期すために平成13年4月に施行された法律です。
民法をはじめとする私法上の契約については、一般に、当事者間の合意さえあれば自由に契約を締結できるという契約自由の原則が妥当しています。もっとも、契約当事者が対等の立場にあって当事者の自由意思が働く状況で相互が交渉により契約内容を決定しうる場合にのみ意義がある原則です。
そこで、事業者が圧倒的な情報量及び交渉力を持ち、事業者が用意する定型的約款を用いることで条項の修正の余地さえ与えない状態で消費者に契約を締結させることも多い消費者契約においては、消費者保護のために契約自由の原則を修正し、消費者を保護することを目的として制定されたのが消費者契約法です。

(2)法の適用範囲
消費者契約法は、「消費者」と「事業者」との間の契約を対象とします。「消費者」とは、個人(事業としてまたは事業のために契約の当事者となるものを除く)をいい(同法2条1項)、「事業者」とは、法人その他の団体及び事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合における個人をいいます(同2項)。
居住用の賃貸借契約の場合、その所有する不動産を継続して賃貸する場合には、個人であっても事業者に当たりますから、同法が施行された平成13年4月以降に締結された契約であれば、適用されます。

(3)消費者契約法の要件・効果
同法は、1条で、事業者の行為により消費者が誤認または困惑した場合には、①契約の申込み・承諾の意思表示の取り消し、②事業者の損害賠償免除等、消費者の利益を不当に害することになる契約条項の全部または一部の無効とすることを宣言しています。
同法8条以下では、いかに当事者間で説明・合意があろうとも、不合理な内容の契約条項は、その有効性を維持できないとの法理が示されています。すなわち、事業者の損害賠償責任を免除する条項(同法8条)、消費者が支払う損害賠償額を予定する条項(同9条)、及び消費者の利益を一方的に害する条項(同10条)は無効と規定しています。

保証会社等へ支払った滞納家賃の貸主への不払い

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家賃等は保証会社へ支払うことになっており、これまで延滞することなく支払ってきた。ところが、保証会社が倒産し、家主から、半年分、家賃が滞納されているので支払ってくれといわれた。通帳に送金の記録もあり延滞分は一切ないが、なんらかの支払義務を負う可能性はあるか。

基本的には、一度支払った家賃を再度支払う必要はありません。支払記録は、家賃滞納していない証明として保管しておくと良いです。

【解説】
保証会社は貸主と契約をしており、保証会社への履行が貸主に対する「債務の本旨に従った履行」であり(民法415条参照)、保証会社へ遅滞なく支払っていれば、賃料支払義務は果たしていることになります。
そのため、貸主は保証会社の倒産手続内において、既払いの家賃を回収することになります。

⑪家賃の取り立て等

追い出し行為

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家賃を滞納していたら、居住妨害をしてきた。どうすれば良いか。

借主が任意に退去しない場合であっても、貸主等が私的な明渡し強行行為に及 ぶことは自力救済として禁止されており、違法行為です。

【解説】
追い出し行為の違法性については、家賃滞納による賃貸借契約解除前と後に分けて考えることができます。

(1)賃貸借契約存続中
賃貸借契約存続中、貸主は借主に賃貸物件を使用収益させる義務を負っています(民法601条)。貸主は契約を解除するまでは、借主に退去・明渡しを求めることはできません。貸主が追い出し行為に及ぶことは、使用収益させる債務の不履行として損害賠償請求(民法415条)が可能です。

(2)賃貸借契約解除後
家賃を滞納し、それが貸主・借主間の信頼関係を破壊するに至った場合には、貸主は契約を解除(民法541条)することができます。契約が解除された場合、借主には賃貸物件を適法に使用収益する権利はなくなりますから、借主は貸主に対して建物を明け渡す必要があります。
もっとも、貸主が借主に対し適法に建物明渡しを求めたにもかかわらず、借主が任意に明け渡さない場合であっても、裁判所の強制執行等の手続きによって明渡しを実現する必要があり、自らの実力を持って権利の実現を図ることは許されず、違法となります(自力救済の禁止)。実際、裁判例に おいても、明渡し目的の自力救済者の行為の違法性が認定される場合がほとんどのようです。
そこで、追い出し目的で居住妨害行為に及んだ者について、借主に対する不法行為(民法709条)が成立し、借主は損害賠償請求をすることができます。

鍵の付け替え

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家賃を滞納していたら、突然、無断で鍵が付け替えられており、自分の部屋から閉め出された。どうすれば良いか。

鍵を付け替えて居室から閉め出す行為は、借主の賃貸物件を占有使用する権利を侵害する行為に当たり、自力救済行為として違法となります。

【解説】
(1)原則
賃貸借契約が継続中は、借主に使用収益の権利がありますから、貸主は借主を締め出すことはできません。
問題は、家賃滞納等により賃貸借契約が解除され、借主が使用する権利を失った後ですが、借主の占有権自体はあるものと考えられますので、裁判所の強制執行等の手続きによって明渡しを実現する必要があり、借主の占有権を排除しようとする行為は、自力救済として違法となると解されています。

(2)借主が同意承諾を与えていた場合
借主が事前に鍵の付け替え等について、特約によって同意を与えていた場合(例えば賃貸借契約書中に予め包括的に借主から物件の開錠をする権限を授与する条項が入っていた場合等)、そのような特約の有効性が問題となります。
 このような条項は、どのような場合に権利を付与するかの定めにもよりますが、法の禁止する自力救済を許容する合意であり、違法とされる可能性があるほか、消費者契約法10条により無効とされる可能性も考えられます。そのため、このような条項があっても、貸主による実力行使は、民事上の不法行為に該当する可能性があると考えられます。

荷物の運び出し

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家賃を滞納していたら、留守中に荷物を全て運び出されてしまった。どうすれば良いか。

原則として、借主の荷物は借主の所有物ですから、貸主が勝手に処分することは できないと考えられます。

【解説】
(1)原則
明渡し後であっても、借主が残置した家具・調度品等の所有権は借主に属するので、貸主がこれを勝手に処分した場合は、民事上(損害賠償請求)、刑事上(窃盗罪、器物損壊罪等)の責任が生じます。

(2)残置品の処置の定めがある場合
借主の明渡しが完了しない場合に、物件内の動産の搬出や処分をする権限を付与する条項や、借主が物件内の動産の所有権を放棄する条項がある場合であっても、借主の意思に反して物件内に立ち入って動産を搬出・処分等することは、住居侵入罪等に当たる可能性や、民事上も不法行為に該当する可能性があると考えられます。

⑫修繕

修繕の責任者

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賃貸住宅の修繕について、入居者は修繕義務を負うか。

借主は原則として修繕義務を負いません。修繕義務は貸主にあります。

【解説】
(1)原則
賃貸物の使用に際して必要な修繕については、原則として、貸主が修繕義務を負います(民法606条1項)。
したがって、居住者に故意・過失がない場合、貸主が修繕義務を負います。

(2)特約がある場合
賃貸借契約に「修繕は借主が行う」旨の特約が入っている場合に、借主が修繕義務を負うかが問題となります。
この点について、判例は、そのような特約は、原則として、貸主の修繕義務を免除したに過ぎず、借主に修繕義務を課す趣旨ではない旨、判示しています(最高裁判所判決昭和43年1月25日判時513号33頁)。※参考1
また、修繕特約について、襖の貼り替え等の「軽微な修繕」のための費用について、貸主の修繕義務は免除されると考えられています。しかし、建物の主要構造部分に関わる修繕等の「大修繕」については、修繕特約は無効であると解されています。(軽微な修繕の範囲は<参考>別表第4参照)
なお、貸主、借主の双方が修繕しないまま契約が終了した場合、敷金から修繕費用を控除することができるかについて、入居者(借主)が修繕義務を負うことはないため、敷金から控除することはできません。

※参考1
借主が修繕義務を負うと解するには、特約に加え、借主が修繕義務を負うとの合意が認められる「特別の事情」が必要であると考えられています(名古屋地方裁判所判決平成2年10月19日判時1375号117頁)。

<参考>
(契約期間中の修繕)
第9条 甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合において、乙の故意又は過失により必要となった修繕に要する費用は、乙が負担しなければならない。
2 前項の規定に基づき甲が修繕を行う場合は、甲は、あらかじめ、その旨を乙に通知しなければならない。この場合において、乙は、正当な理由がある場合を除き、当該修繕の実施を拒否することができない。
3 乙は、甲の承諾を得ることなく、別表第4に掲げる修繕を自らの負担において行うことができる。

別表第4(第9条第3項関係)
畳表の取替え、裏返し      ヒューズの取替え
障子紙の張替え         給水栓の取替え
ふすま紙の張替え        排水栓の取替え
電球、蛍光灯、LED照明の取替え その他費用が軽微な修繕
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

室内の軽微な修繕

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入居した時からついている部屋の中の蛍光灯が切れた。自分で取り替えるのか。

借主は原則として修繕義務を負わず、貸主に通知する義務があります。ただし、契約内容により、小規模な修繕は貸主に通知することなく、借主の負担で行うことができます。

【解説】
賃貸借契約に「電球・蛍光灯・ヒューズの取り替えは借主が行う」旨が入っている場合には、貸主に連絡することなく、自分の負担で取り替えることができます。

給湯器の取り替え

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給湯器が壊れお湯が使えなくなった。修理会社に連絡したところ、給湯器を新しいものに取り替える必要があるといわれた。大家に修繕してもらえるか。

借主は原則として貸主に取り替えを要求できます。

【解説】
賃貸借契約に「修繕は借主が行う」旨の特約が入っている場合に、借主が修繕義務を負うかが問題となります。特約が有効で借主が修繕義務を負う場合でも、建物の主要構造部分に関わる修繕等の「大修繕」については、貸主にしか行うことができないと理解されており、修繕特約は無効である と解されています。「大修繕」に該当しないものとしては、比較的短期間で消耗し、修繕費用も少額で済む場合が挙げられます。
本件で、特約により借主に修繕義務が認められるとした場合、給湯器の取り替えが「大修繕」に当たるかが問題となります。費用が多額ではない場合には、「大修繕」には該当しないと考えられ、借主による修繕が認められる可能性があります。これらは、実際の修繕費用、礼金の有無や金額、賃料の額、契約締結の経緯、他の契約状況等を総合的に考慮して判断することとなります。※参考1

※参考1
費用が多額になる場合には、「大修繕」に当たる可能性があります(名古屋地方裁判所判決平成2年10月19日判時1375号117頁参照。なお、賃料額や礼金等の諸事情を考慮して判断しています)。

貸主の修繕への対応

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シャワーのホースが破損した。大家に修繕を依頼しているが、いっこうに直してもらえない。不便なので早く直して欲しいのだが、自分で勝手に直して良いか。

原則として貸主の承諾が必要です。

【解説】
修繕の必要がある場合、原則として、貸主に通知する義務があります(民法615条)。場合によっては依頼内容を書面で通知したり、自ら修繕する意思がある場合にはその旨を伝えた上で同意を得たりする等の方法で自らの意思を貸主に示すことが有効である場合もあります。
なお、契約上、軽微な修繕について、借主が行う旨がある場合は、借主の負担にて修繕することができます。

居住者に責任のない水漏れ

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台所の下で水漏れしているようなので、調べてもらったら、配水管の老朽化による水漏れだといわれた。大家にいったら、使い方が悪いのだから、自分で修繕してくれといわれたが、自分で修繕しなければならないのか。

借主は原則として修繕義務を負いません。

【解説】
通常の生活の範囲内の使用方法であれば、借主に過失があるとは認められないと考えられます。その場合、配水管は居住に必要な設備ですので、貸主に修繕義務があります。借主の利用の仕方が通常の生活の範囲を超えている特段の事情がある場合は、費用負担について貸主と話し合うことになると考えられます。

複数の過失者による水漏れ

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入居する物件を決めるに当たって、洗濯パンのサイズを不動産仲介会社に電話で確認したところ、入るという回答であったため入居を決めた。実際に引っ越しをしてみたら、洗濯機が入らず不動産仲介会社にいったところ、担当者が無理矢理、配水管を押し込んで洗濯機を設置した。数回、洗濯機を使い、3日間不在にしたところ、洗濯機の配水管より漏水し、部屋のカーペットの貼り替えが必要な状態である。不動産仲介会社は、不在にする際、洗濯機への給水栓を止めなかったのが悪いといって、こちらが全額負担で修理するようにいってきている。全額、費用負担しなければならないのか。

誰に、どの程度の、過失があるのかについて良く話し合う必要があります。

【解説】
過失者が過失の程度に応じて損害を負担する必要があります。因果関係が明確でない場合、まずは当事者同士で十分に話し合う必要があると考えられます。なお、過失者が複数の場合の費用負担割合について、明確な基準はなく、事案毎に諸般の事情を考慮して考える必要があります。

過失者の特定

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ドアを開けた際、ドアノブで部屋の外の壁に傷をつけてしまった。ダンパーがついていれば傷つけることはなかったと思うが、そのドアにはついていなかった。傷の修繕費を負担しなければならないか。

貸主に過失があるかについて話し合う必要があります。

【解説】
ダンパーを設置しなかったことが貸主の過失と認められれば、過失相殺(民法418条)がなされると考えられます。まずは状況や過失責任について、貸主と話し合う必要があると考えられます。なお、過失者が複数の場合の費用負担割合について、明確な基準はなく、事案毎に諸般の事情を考慮して考える必要があります。

結露

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アパートの結露がひどく、壁紙にカビが生えてしまった。大家にクレームをいったところ、住み方が悪いのだから自分で修繕するようにといわれた。自分で壁紙を貼り替えないといけないか。

通常の住み方であれば借主に修繕の義務はありません。ただし、結露は様々な要因でおこりますので、まずは貸主と話し合うと良いと考えられます。

【解説】
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では、通常の住み方であれば借主に修繕の義務はないとしている一方、借主が、結露が発生しているにもかかわらず、貸主に通知もせず、かつ、ふき取るなどの手入れを怠った場合には、通常の使用による損傷を越えると判断されるとされています。

設備修繕の不便による家賃の減額

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室内の設備が壊れ、不自由が生じた場合、家賃減額は可能か。

借主は基本的に家賃を支払う必要があります。設備が使えないことによる生活上の不便が著しい場合には、設備が使えない期間の家賃減額を請求することができる可能性があります。

【解説】
賃貸借契約において、賃料は、賃貸物を借主に使用させることに対する対価であり(民法601条)、使用させることができない場合は、賃料を支払う義務を負わないと考えられます。ただし、居住自体はできるものの、生活上不便が生じている場合については、賃貸物を借主に使用させることができない訳ではないため、当然には賃料支払義務を免れません(最判昭和34年12月4日民集13巻12号1588頁参照)。※参考1

※参考1
修繕義務の不履行によって借主の使用収益に及ぼされる障害の程度が一部にとどまる場合でも、賃借物の一部滅失による賃料の減額請求を定めた民法611条1項の規定を類推し、借主は賃料の減額を請求することができると判断された下級審判例もあります(前掲名古屋地方裁判所判決平成2年10月19日)。

給湯器の修繕による不便

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給湯器が壊れお湯が使えなくなった。修理できるまで、お湯が使えず、入浴もできず生活が大変不便であり、この間の家賃を減額してもらいたい。

借主は、給湯器が使えない間、家賃の減額を請求することができる可能性があります。

修繕費の貸主への請求

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修繕費を大家に請求することは可能か。

修繕費は原則として貸主が負担しますが、まず貸主に修繕を行う旨、通知をすることが必要です。

【解説】
原則として、借主は、修繕の必要がある場合、貸主に通知する義務があります(民法615条)。
その上で、賃貸物の使用に際して必要な修繕については、原則として、貸主が修繕義務を負います(民法606条1項)。そして、貸主が行うべき修繕を、借主が行い費用を負担した場合は、借主は貸主に対し、当該費用の償還を請求することができます(民法608条1項)。賃貸借契約に「修繕は借主が行う」旨の特約が入っている場合でも、「特別の事情」がない限り結論は同様です。※参考1

※参考1 急迫の危険防止等の必要がある時は、貸主の承諾をまたずに応急工事および普通の保存工事の範囲を超えない程度の修繕をすることができると判断された下級審判例もあります(東京地方裁判所判決昭和46年5月25日判時635号117頁)。

水漏れ修理の費用負担

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突然、水漏れしたため、修理会社に連絡し、修理してもらった。大家に修理費を請求することはできるか。

まずは貸主に通知することが必要です。緊急に修理する必要があった場合は、応急程度もしくは普通の修繕をし、その費用を請求できると考えられます。

【解説】
借主は、賃借物について貸主の負担に属する「必要費」を支出したときは支出後直ちに請求することができます(民法606条1項)。なお、軽微な修繕で、特約がある場合は、貸主に通知することなく、借主の負担で行う場合もあります。「Q修繕の責任者」をご参照下さい。

修理期間中の引越費用等の補償

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修繕のため居住できない期間について、引越代、居住費を大家に負担してもらいたい。

貸主に請求することが可能と考えられます。

【解説】
修理まで引越をしなければならない場合、引越費用を貸主に請求することができるかは、貸主に損害賠償責任があるかによります。
この点、賃貸借契約において、貸主は、賃貸物を借主に使用させる義務を負っており(民法601条)、各部屋を居住の用に適した状態にしておく必要があります(大判昭和5年7月26日民集9巻704頁)。
本件でも、貸主は生活に支障が生じないよう、賃貸物を維持・管理する義務を負っており、これを怠ったことに基づき、損害賠償責任を負うと考えられます。修繕中、居住できないのであれば、引越費用や修繕期間中の居住費は通常生じる損害の範囲内(民法416条1項)であり、貸主に請求することが可能と考えられます。

雨漏り修繕中の引越費用

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雨漏りがひどくなってきており、生活に支障がある。修理ができるまで引っ越したい。この費用は自分で払わないといけないか。

全く居住ができないのであれば、貸主に請求することが可能と考えられます。

【解説】
「Q修理期間中の引越費用等の補償」の通りです。
ただし、「生活に支障がある」程度等について、貸主と十分相談する必要があると考えられます。

貸主に要求できる修繕の範囲

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建物の構造等、抜本的な修繕を大家に要求できるか。

修繕義務の範囲を超える可能性があります。

【解説】
修繕義務は、賃貸物の使用に必要があり、かつ修繕が可能であれば認められますが、修繕が可能といえるためには、物理的ないし技術的な観点だけでなく、経済的ないし取引上の観点からみても可能であることが必要です。経済的観点を考慮するのは、修繕義務が賃料によって賄われることを 前提としているため、賃料額に比較して不相当に過大な費用を要する修繕を貸主の義務とすることが、貸主と借主の経済的公平に反するからです。
以上を踏まえると、修繕の方法が複数ある場合は、貸主と借主の公平という見地から、経済的・取引的な観点も踏まえて、必要性及び相当性を判断する必要があります。※参考1

※参考1
修繕に多額の費用を要するもののうち、現状のままでも借主側の受ける損失は小さいものにあっては、借主において現状を甘受しなければならない(東京地方裁判所判決平成3年5月29日判時1408号89頁)、当該建物の経済的価値、賃料の額、修繕に要する費用の額等をも考慮に入れて、契約当事者間の公平という見地からの検討も加える必要がある(東京地方裁判所判決平成2年11月13日判時1395号78頁)。

断熱材を入れる等の結露対策

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アパートの結露がひどく、壁紙を始め、至る所にカビが発生する。換気扇をつける等対応はしているが、カビの発生が止まらない。大家に話をしたら、壁紙をクリーニングするとのことであったが、子どもにアレルギーがあるため、断熱材を全面的に入れる等十分な結露対策をしてほしい。

修繕方法について話し合うことが必要です。

【解説】
どのような方法で修繕を行うかについては、賃料の額、修繕に要する費用の額等の諸般の事情を考慮して考える必要があります。

建て替え前の修繕義務

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老朽化し建て替え予定のある物件だが、大家に修繕義務はあるか。

居住に著しい不自由が生じる場合、貸主に修繕義務はあると考えられます。

【解説】
修繕義務は、賃貸物の使用に必要かつ修繕が可能であれば認められます。ただし、修繕が可能といえるためには、経済的ないし取引上の観点からみても可能であることが必要です。近日中に建て替えが予定されている場合には、建て替えの前に費用をかけて修繕をすべきかについては、修繕可能性の観点から問題となり、貸主と借主の経済的公平から、修繕義務の範囲を検討する必要があります。※参考1

※参考1
老朽化が進み早晩大規模修繕ないし改築を免れない建物について、借主が貸主に修繕を請求した事案では、①修繕が可能であって、②修繕をしなければ契約の目的に即した使用収益に著しい支障が生ずる場合に限って修繕義務があると判断された下級審判例もあります(東京地方裁判所判決平成3年5月29日判時1408号89頁)。

建て替え前の建物の雨漏り修繕

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アパートが老朽化しており、雨漏りがする。大家に修理を依頼したが、近々建て替え予定であるため、修理はしないといわれているが、修繕してもらえないのか。

居住に著しい不自由が生じる場合、貸主は経済的に可能な範囲において修繕義務を負います。

【解説】
 「Q建て替え前の修繕義務」の通りです。「Q貸主に要求できる修繕の範囲」もご参照下さい。

⑬管理の状況

管理会社の管理責任

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管理会社に管理費を支払っている場合に借主から管理業務の実施責任を問えるか。

管理委託契約の内容によります。まずは貸主に相談してみてください。

【解説】
(1)管理会社と直接の契約関係にある場合(貸主)
管理会社に対して、賃貸物管理の委託を行っている場合、委託している管理業務の対価として、管理費を支払っています。
したがって、管理会社には、管理委託契約に定められた管理業務を履行する責任があります。
管理業務の具体的な内容については、管理委託契約の内容を確認する必要があります。

(2)管理会社と直接の契約関係にない場合(借主)
貸主は、賃貸借契約に基づいて、借主に対し、賃貸物を使用させる義務を負っており(民法601条)、その履行方法として、管理会社に賃貸物を管理させていることになります。
そのため、借主としては、管理会社ではなく、貸主に管理の実施責任を問うのが原則です。

管理会社の管理責任

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管理会社の対応が悪く、共用の廊下の蛍光灯が消えたままで危ない。どのようにすれば良いか。

管理委託契約の内容によりますので、まずは貸主に相談してみてください。

⑭隣人とのトラブル

迷惑行為

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隣室の迷惑行為はどうすれば良いか。

貸主に事情を説明し、注意等の対応をしてもらうと良いでしょう。

【解説】
(1)原則
貸主は、借主に対して建物を使用収益させる義務を負っている(民法601条)ため、その建物を使用収益に適した状態(居住に適した状態)に維持すべき義務があります。
したがって、貸主は、ある借主の迷惑行為により、その建物が居住に適していない状態にまで至っている場合には、当該借主に迷惑行為をやめさせる必要があると考えられます。
また、借主の迷惑行為が、賃貸物を汚染、損傷し、近隣にも迷惑をかける等、賃貸借契約に付随して通常許容される範囲を逸脱しており、貸主と借主の信頼関係が破壊されたと認められる事情があれば、貸主から賃貸借契約を解除することが可能となる場合があります(民法616条・594条1項)。
その他、借主Aの迷惑行為により、借主Bが損害を被った場合には、BはAに対し、損害賠償請求(同415条)をすることができます。

(2)迷惑行為禁止特約
迷惑行為禁止特約とは、抽象的に「借主は他人に迷惑を及ぼす行為をしないこと」といったもののほか、「ペットの飼育を禁止する」、「楽器演奏不可」等のように禁止行為を具体的に定めるもの等があります。このような特約を定めること自体は、公序良俗(民法90条)に反しない限り、原則として有効であると考えられます。
迷惑行為禁止特約が有効である場合、貸主は、当該特約違反を理由として賃貸借契約を解除できるのが原則です(民法415条、同540条)。但し、当該特約違反が軽微な場合等には、当該特約に違反した事実だけでなく、貸主から借主に対して従前から申入れをしているかという点や、近隣へも悪影響を及ぼしているかといった周辺事情も考慮されて判断される可能性があります。

<参考>
(禁止又は制限される行為)
 第8条 (略)
3 乙は、本物件の使用に当たり、別表第1に掲げる行為を行ってはならない。
(略)
 別表第1(第8条第3項関係)  一 銃砲、刀剣類又は爆発性、発火性を有する危険な物品等を製造又は保管すること。
 二 大型の金庫その他の重量の大きな物品等を搬入し、又は備え付けること。
 三 排水管を腐食させるおそれのある液体を流すこと。
 四 大音量でテレビ、ステレオ等の操作、ピアノ等の演奏を行うこと。
 五 猛獣、毒蛇等の明らかに近隣に迷惑をかける動物を飼育すること。
 六 本物件を、反社会的勢力の事務所その他の活動の拠点に供すること。
 七 本物件又は本物件の周辺において、著しく粗野若しくは乱暴な言動を行い、又は威勢を示すことにより付近又は通行人に不安を覚えさせること。
 八 本物件に反社会的勢力を居住させ、又は反復継続して反社会的勢力を出入りさせること。
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

迷惑行為の抑止

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隣の部屋の住民が夜間、あまりにもうるさい。大家から注意してもらえないか。

貸主に状況を説明し、注意等の対応をしてもらうようにしましょう。

【解説】
「Q迷惑行為」の通りです。

迷惑行為による退去

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上階の居住者が毎日、深夜に大きな音をたてて走り回っている。大家に苦情を伝えているが、大家はなにもしてくれず、改善がみられない。賃貸借契約を解除することはできるか。

社会生活上、通常受忍すべき限度を超えていれば可能であると考えられます。ただし、その判断は関係する事情を総合的に考慮してなされます。

【解説】
「Q迷惑行為」に記載したとおり、貸主は、その建物を居住に適した状態に維持する義務があると考えられます。借主がこの義務の履行を怠っていることを理由に、契約を解除(民法541条)することは、不可能ではなく、それによって被った損害(引越代等)を賠償請求(同415条)できる可能性はないとはいえません。
ただし、「居住に適していない状態」にまで立ち至ったといえるのは、社会生活上通常受忍すべき限度を超える場合のみです。受忍限度を超えたかどうかは、被害の程度や頻度、生活上必要やむを得ないことか、将来的に加害者・被害者の立場が入れ替わる可能性はありうるか等、様々な事情を総合的に考慮して判断されることになります。

迷惑行為による慰謝料請求

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隣室の住人が、毎夜、騒音を立てるため、不眠症となった。慰謝料請求することはできるか。

騒音が受忍限度を超えている場合には、請求することができると考えられます。

【解説】
(1)借主間の関係
賃貸借契約は、貸主と借主との間の契約であり、借主(入居者)相互間にはなんら契約上の権利義務関係も成立していませんから、隣人の迷惑行為について賃貸借契約に基づく請求をすることはできません。
ただし、入居者間の相隣関係の問題として騒音等の迷惑行為が受忍限度を超えた場合は、それによる精神的苦痛について慰謝料請求権(民法709条、710条)が発生します。

(2)受忍限度
請求する入居者が、騒音被害が受忍限度を超えることを主張・立証する必要があります。どの程度の迷惑行為があった場合に、社会通念上受忍限度を超えたといえるかについての判断は、個々の事案により、明確な基準はありません。調停や訴訟の場では、隣人の迷惑行為が受忍限度を超えるかどうかの判断をするために、証拠が要求されます。

居住者の過失による水漏れ

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風呂の水を止め忘れ、部屋が水浸しになったほか、下の部屋にも水が漏れた。大家から、部屋の床の張り替え、下の部屋の天井の張り替えを要求された。全面張り替えの工事見積もりが来ており、高額だが支払わなければならないか。また、下の部屋のTVに水がかかり壊れたとして賠償請求が来ているが支払わなければならないか。

損害賠償する必要があります。

【解説】
損害賠償の範囲は、原則として通常発生する損害の範囲であり(民法416条1項)、特別の事情によって生じた損害のうち、その事情を予見し、または予見することができたときは、特別の事情から発生した損害についても賠償する必要があります(民法416条2項)。
本件の、①部屋の床及び下の階の天井を張り替えることは、水漏れにより通常発生する損害の範囲と考えられます。また、②下の部屋に水漏れが発生した場合、通常の家財道具としてTVが存在すること、TVが水濡れにより故障することも、通常発生する損害の範囲と考えられます。
金額については、①床や天井の張り替え工事の見積金額が相当な額を超えて高額である場合は、居住者において相見積もりを取る等、損害賠償の金額の相当性について貸主と協議することは可能です。②下の部屋のTVについては、故障したTVと同等品を購入する価格となります。

⑮自身のトラブル

迷惑行為禁止特約について

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自分の行為が迷惑行為禁止特約に反するとして明渡しを請求された。従わなくてはならないか。

入居時に同意した迷惑行為禁止特約が有効であり、かつ、特約に違反して、契約解除が認められる場合には、明渡し請求に応じなければならないと考えられます。

【解説】
(1)特約の有効性
賃貸借契約において、借主は当該物件の所有者のようにこれを自由に使用することができるわけではなく、借主として必要とされる注意義務の範囲内で使用する必要があります。そこで、契約締結時に一定の範囲の行為を禁止・制限する迷惑行為禁止特約も、相当の範囲内であれば有効となります。「⑭隣人とのトラブル」をご参照下さい

(2)特約違反に基づく契約解除
迷惑行為禁止特約に借主が違反した場合、貸主は特約違反の行為を止めるように警告することができます。さらに、そのような警告にも借主が応じず、契約関係を継続することが困難というように信頼関係が破壊されたと認められる場合には、契約を解除することができます。契約が有効に解除された場合には借主は明渡し請求に応じる必要があります。
自ら迷惑行為と認識していないにもかかわらず、警告を受けた場合であっても、隣人から迷惑行為と認識されている場合もありますので、どのような行為が問題視されているのかについて確認した上で、改善を心掛けることも必要です。
なお、「賃貸住宅標準契約書」10条2項2号では、8条で定める禁止制限行為に違反し、かつ、「契約を継続することが困難と認められるに至ったとき」に解除できると定めています。

<参考>
(契約の解除)
第10条 (略)
2 甲は、乙が次に掲げる義務に違反した場合において、甲が相当の期間を定めて当該義務の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されずに当該義務違反により本契約を継続することが困難であると認められるに至ったときは、本契約を解除することができる。
一 第3条に規定する本物件の使用目的遵守義務
二 第8条各項に規定する義務(同条第3項に規定する義務のうち、別表第1第六号から第八号に掲げる行為に係るものを除く。)
三 その他本契約書に規定する乙の義務
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

迷惑行為禁止特約違反を理由とする明渡し請求

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動物の飼育禁止特約のある賃貸マンションに入居しているが、内緒でウサギを飼っていた。人に迷惑をかける飼い方はしていないが、先日、大家にウサギがいることを知られてしまい、特約違反を理由に退去を求められている。退去しなくてはならないのか。

基本的に特約は守る必要があります。退去が必要かどうかは貸主と話し合うことが大切であると考えられます。

【解説】
(1)ペット飼育禁止特約
犬や猫等のペットを飼うと、鳴き声による騒音や糞尿による悪臭、不衛生が発生することが考えられるため、共同生活の安全衛生、秩序維持等のために、ペット飼育禁止特約を賃貸借契約に盛り込むことは一般に有効であると考えられています。

<参考>
(禁止又は制限される行為)
第8条 (略)
3 乙は、本物件の使用に当たり、別表第1に掲げる行為を行ってはならない。
4 乙は、本物件の使用に当たり、甲の書面による承諾を得ることなく、別表第2に掲げる行為を行ってはならない。
(略)
別表第1(第8条第3項関係)
一~四 略
五 猛獣、毒蛇等の明らかに近隣に迷惑をかける動物を飼育すること。 別表第2(第8条第4項関係)
一・二 略
三 観賞用の小鳥、魚等であって明らかに近隣に迷惑をかけるおそれのない動物以外の犬、猫等の動物(別表第1 第五号に掲げる動物を除く。)を飼育すること。
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

(2)特約違反による明渡し請求
上記禁止特約に違反したとしても、直ちに契約が解除できるわけではありませんが、特約違反により近隣居住者・貸主らに多大な迷惑をかけている等、貸主と借主の信頼関係が破壊されたといえる場合には、貸主は契約を解除できます。契約が有効に解除された場合には、借主は明渡し請求に応じなくてはなりません。

(3)ペット禁止特約がない場合
ペットの飼育について、ペット禁止特約がなかったとしても、社会的ルールを守らず(糞尿の始末をしない等)、近隣住民の生活の平穏を脅かした場合には用法義務違反となる可能性があります。

隣人からの苦情について

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生活音がうるさいと隣人から苦情がきた。どうすれば良いか。

まずは、いつ、どのような音がうるさいのか等について具体的に話し合い、解決の道を探るのが望ましいと考えられます。

【解説】
入居者相互間には、なんらの契約関係も存在しないため、契約上の権利義務に基づく請求がされることはありません。ただし、騒音被害が受忍限度を超えた場合には、騒音を立てている入居者は、民法上の不法行為(民法709条)として損害賠償や慰謝料請求等を請求されてしまいます。
また貸主には借主に対して、当該物件を居住に適した状態に維持すべき義務がありますので、隣人が貸主に対して警告等の対応を依頼した場合、貸主から迷惑行為禁止特約等に違反する旨、警告を受ける可能性があります。一般的な生活音であれば、騒音被害が受忍限度を超えない場合が多いと思われますが、仮に騒音被害が受忍限度を超えるものであれば、迷惑禁止行為特約違反行為を継続すれば貸主から契約解除、明渡し請求を受ける可能性もあります。
隣人同士ということもあり、今後も継続して居住することを考えると、まずは話し合いによる解決を図ることが大切であると考えられます。「⑭隣人とのトラブル」をご参照下さい。

⑯一般売買による建物の所有者の変更

一般売買による建物の所有者の変更が借主の権利・義務に与える影響

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入居中に売買により建物の所有者が変更になった場合、引き継がれる借主の権利及び義務はなにか。

入居中に売買により所有者が変更になった場合、変更後の所有者には、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。

【解説】
賃貸物の売買があった場合、借主は、売買により変更した後の所有者に対して、賃貸物を従前と同様の条件で(最高裁判所判決昭和39年6月26日民集18巻5号968頁)継続して賃借することを主張できると共に、賃料を支払うことになります(最高裁判所判決昭和33年9月18日民集12巻13号2040頁、最高裁判所判決昭和46年4月23日民集25巻3号388頁、最高裁判所判決昭和49年3月19日民集28巻2号325頁)。なお、変更後の所有者に賃料を支払う際には、変更後の所有者が登記簿の名義上も所有者となっていることを確認することが必要です(最高裁判所判決昭和46年12月3日判時655号28頁)。
また、変更後の所有者は、変更前の所有者の敷金返還義務の残額(最高裁判所判決昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁)及び有益費償還義務(最高裁判所判決昭和46年2月19日判時622号76頁)も承継するのが原則です。

一般売買による建物の所有者の変更時の扱い

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2年契約でアパートに入居した。8ヶ月が経過したころ、居住しているマンションの所有者が変更になると聞いた。新しい所有者から退去や新規に敷金を要求されたら、どうすれば良いか。

一般売買による所有者変更では賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれるため、契約期間内の継続を主張することができます。また、貸主の敷金返還義務(家主変更時の敷金残金)も引き継がれるため、原則として、改めて敷金を支払う必要はありません。

⑰競売による建物の所有者の変更

競売による建物の所有者の変更が借主の権利・義務に与える影響(原則)

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入居中に競売により建物の所有者が変更になった場合、引き継がれる借主の権利及び義務はなにか。

入居中に競売により所有者が変更になった場合に引き継がれる権利の有無は、借主の入居時期により異なります。

【解説】
競売により貸主が変更になった場合は、抵当権設定・競売手続開始と入居の時期の関係により、以下のとおり権利関係が異なります。これは入居時点で、抵当権の設定が登記されていた建物を賃 借した場合について、短期賃貸借を廃止する法律が平成15年に成立し、平成16年4月1日から施行されていることによるものです。

(1)平成16年4月1日以降に入居した場合
 1)抵当権設定前に入居した場合には、売買の場合と同様、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。
 2)抵当権設定後に入居した場合には、原則として、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれません。
 2-1)競売手続開始前に入居した場合のうち、
 2-1-1)賃借権設定登記がなく、または賃借権設定登記前に設定された抵当権者全員の同意の登記がなければ(民法387条1項)、競落後6ヶ月は借主の居住が認められますが(民法395条1項1号)、6ヶ月後には退去することになります。
 2-1-2)賃借権設定登記があり、かつ賃借権設定登記前に設定された抵当権者全員の同意の登記があれば、売買の場合と同様、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます(民法387条1項)。
 2-2)競売手続開始後に入居した場合には、競落後、借主は直ちに退去することになります。

(2)平成16年3月31日までに入居した場合
 1)抵当権設定前に入居した場合には、売買の場合と同様、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。
 2)抵当権設定後に入居した場合には、原則として、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれません。
 2-1)賃貸借契約の期間が3年以内の場合、賃貸借契約期間の終了までは変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。
 2-2)賃貸借契約期間が3年を超える場合、競落後、借主は直ちに退去することになります。

競売による所有者の変更時の敷金の取扱

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競売によりアパートの大家さんが変わった。敷金は新しい大家さんから返してもらえるのか。

アパートの抵当権が実行され、競売によってそのアパートが競落された場合には、あなたが賃貸借契約を締結してアパートの引渡を受けた時よりも前に登記された抵当権の競売の場合には前の貸主から敷金を返してもらい、あなたが賃貸借契約を締結してアパートの引渡を受けてから登記された抵当権の競売の場合には、競落人が新しい貸主となりますから、その新しい貸主から敷金を返してもらいます。

【解説】
既に抵当権設定登記がなされた建物について、平成16年4月1日以降に賃貸借契約を締結して引渡を受けていた場合で、抵当権の実行によって競落人が新たに当該建物の所有者になった場合には、競落人である新たな所有者は賃貸借契約を承継する義務はないので、競落人は敷金返還義務を負いません。したがって、この場合には、借主は、従来の貸主である元の建物所有者に対して敷金の返還を求めることになります。これに対し、賃貸借契約を締結して引渡しを受けた後に設定登記 がなされた抵当権の実行によって競落人が新たに当該建物の所有者になった場合には、競落人である新たな所有者は賃貸借契約を承継するので、新たな貸主である新所有者に対して敷金の返還を求めることになります。

⑱原状回復

原状回復について

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原状回復とはなんですか。

原状回復の定義は、国土交通省が平成23年8月に再改訂した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下、”ガイドライン“とする)」において、「居住者の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による消耗・毀損を復旧すること」と定められています。

【解説】
上述した原状回復に相当する修繕は借主の負担となります。いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとされています。

『通常の使用』とは、
A:借主が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの
B:借主の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等借主の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
A(+G):基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの
→このうち、B、A(+B)について、借主に原状回復義務があるとされています。

なお、原状回復義務がある場合の施工単位について、可能な限り毀損部分に限定し、その補修工事は出来るだけ最低限度の施工単位とすることが基本であるとされています。

図 1 通常の使用の範囲等

資料)国土交通省(平成23年)「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の図を基に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが加筆

耐用年数について

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耐用年数とは、どのような考え方ですか。

原状回復義務があるとされる場合においても、経年による変化や通常損耗が含まれるため、借主が修繕費用の全てを負担することとなると、契約当事者間の費用配分の合理性を欠くなどの問題があると考えられています。そのため、借主の負担については、建物や設備の経過年数(耐用年数を使用)を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させるのが適当であるとされています。

【解説】
経過年数による減価割合について、国土交通省では従来から、「法人税法」(昭和40年3月31日法律第34号)及び「法人税法施行令」(昭和40年3月31日政令第97号)における減価償却資産の考え方を採用するとともに、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年3月31日大蔵省令第15号) における経過年数による減価割合を参考にして、償却年数経過後の残存価値は10%となるようにして借主の負担を決定することとされていました。
現行のガイドラインでは、平成19年の税制改正により残存価値が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったことを踏まえ、例えば、カーペットの場合、償却年数は、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を描いて経過年数により借主の負担を決定することとしています。従って、年数が経つほど借主の負担割合は減少することとなります。

図 2 設備等の経過年数の借主の負担割合(耐用年数6年及び8年、定額法の場合)
借主の負担割合(原状回復義務がある場合)


経過年数の考え方を導入した場合、新築物件の賃貸借契約ではない場合に、どう取り扱うかという問題が生じます。
ガイドラインでは、まずは借主が、その物件に何年住んだのかという入居年数は、契約当事者にとっても管理業者等にとっても明確でわかりやすいため、入居年数で代替する方式を採用することとしています。
ただし、入居時点の設備等の状況は、必ずしも価値が100%のものばかりではないので、その状況に合わせて経過年数のグラフを下方にシフトさせて使用することとされています。入居時点の状態でグラフの出発点をどこにするかは、「契約当事者が確認のうえ、予め協議して決定することが適当である」とされており、契約時に双方がよく確認し、納得したうえで契約を締結することが大切であるとされています。

図 3 入居時の状態と借主の負担割合(耐用年数6年、定額法の場合)
借主の負担割合(原状回復義務がある場合)

原状回復ガイドラインについて

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国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とはなんですか。

民間賃貸住宅における賃貸借契約は、いわゆる契約自由の原則により、貸す側と借りる側の双方の合意に基づいて行われるものですが、退去時において、貸した側と借りた側のどちらの負担で原状回復を行うことが妥当なのかについてトラブルが発生することがあります。
こうした退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のため、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして平成10年3月に取りまとめたものであり、平成16年2月及び平成23年8月には、裁判事例及びQ&Aの追加などの改訂が行なわれています。

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

なお、本事例集の参考資料として、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」から「原状回復の費用算定の手順(イメージ)」、「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)」、「契約書に添付する原状回復の条件に関する様式」、「原状回復の精算明細等に関する様式(例)」を掲載していますので、適宜、活用してください。

原状回復ガイドラインの改訂について

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原状回復ガイドラインは、平成23年に改訂されたそうですが、改訂のポイントはなんですか。

改訂のポイントは、3点あり、原状回復トラブルを未然に防止するための対応と、税法の改正を受けた残存価値割合の変更、Q&Aや裁判事例の追加です。

【解説】
平成23年改訂のポイントは3点あります。
1つ目は、原状回復のトラブルの未然防止への対応です。契約時における借主・貸主の合意の果たす役割の重要性に鑑み、「契約書に添付する原状回復の条件に関する様式」を追加するとともに、精算段階での透明化を目的に「原状回復の精算明細等に関する様式(例)」を示すことで、賃貸借契約における入口(契約)、出口(退去時の精算)の両方において、トラブルの未然防止を推進しています。他にも、最高裁判例やQ&Aを追加することで、特約の有効性あるいは無効性の明確化を図っています。
2点目は、税法改正を受けた残存価値割合の変更です。経過年数による減価割合については、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」を参考にするとしており、償却期間経過後の借主の負担が10%となるよう借主の負担を決定していましたが、平成19年の税制改正に伴い当該省令も改 正され、残存価値が廃止され、耐用年数経過時に残存簿価1円まで償却できるようになったため、ガイドラインにおける経過年数の考慮も、税制改正に従った形で改訂されました。
3点目は、Q&A、裁判事例の追加です。より分かりやすく、かつ時代に即したものとなるように、具体的な事項についてQ&Aを追加するとともに、平成16年改訂後に出された主な判例21事例が追加されています。

⑲床

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畳の表替費を請求されたが支払う必要はあるか。

原則として支払う必要は無い場合が多いと考えられます。ガイドラインでは、「畳の裏返し、表替えは、次の入居者のためのアップグレードに相当すると考えられる。」とされています。

【解説】
畳の裏返し、表替えは、次の入居者のためのアップグレードに相当すると考えられます。また、日照による畳の変色、家具設置によるへこみは通常の住まい方の範囲と考えられます。
一方、飲み物をこぼした跡がある、不注意により雨が吹き込んだことによる変色などは借主の不注意に該当することが多いと考えられます。
借主に原状回復義務があった場合、対象となる単位は、原則、毀損のあった枚数単位になると考えられます。
また、畳表については、消耗品に近いものであり、減価償却資産になじまず、経過年数は考慮しないものとされています。畳床は6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算出します。

フローリング・カーペット

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フローリングのワックスがけ費を請求されたが支払う必要はあるか。

原則として支払う必要は無い場合が多いと考えられます。ガイドラインでは、「フローリングへのワックスがけは、通常の生活において必ず行うとまでは言い切れず、貸主負担とすることが妥当と考えられる。」とされています。

【解説】
フローリングへのワックスがけは、通常の生活において必ず行うとまでは言い切れず、貸主負担とすることが妥当であると考えられます。日照による色落ちも、通常の生活でさけられないものであり、通常の住まい方の範囲と考えられます。
一方、落書きや、借主の不注意による雨の吹き込み、清掃しても除去できない冷蔵庫下のサビ跡など、借主の過失や善管注意義務違反に相当すると考えられる場合は原状回復の対象になると考えられます。
借主に原状回復義務があった場合、フローリングの場合は、原則、最低㎡単位で、経年変化は考慮しないものとされています。ただし、フローリングの床全体を張り替えた場合、当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定します。カーペット、クッションフロアの場合、1部屋を単位とし6年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定します。

フローリング・カーペット(入居者の故意・過失によるキズへの原状回復)

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退去のための引越作業中、フローリングやカーペットに目立つキズができてしまった。フローリングやカーペットの張替え費用を請求されたが、引越業者が誤って作ったキズである場合にも支払う義務があるか。

原則として支払義務があるものと考えられます。ガイドラインでは、「引越し作業中に出来たキズは、借主の善管注意義務違反又は過失に該当する場合が多いと考えられる。」とされています。なお、借主は引越業者に対して別途費用の請求を行える場合も多いと考えられます。

【解説】
引越作業で生じたひっかきキズは、借主の責任で引越業者に作業を依頼していることから、貸主から見れば借主側の善管注意義務違反又は過失に該当する場合が多いと考えられ、原則として原状回復の対象となると考えられます(つまり借主の不注意で雨が吹き込む等して発生したフローリングやカーペットの色落ちや、落書き等の故意による毀損の場合と原則として同様に考えます)。
しかし、キズ自体は引越業者の過失によるものであり、借主は引越業者に対して当該費用の支払いや修繕を請求することが可能です。具体的にどのような請求ができるかについては、引越業者との契約(約款)の内容次第ですが、責任の範囲や請求を行える期間について制限がある場合が多いですので、明らかに引越しでできたキズがある場合には早々に引越業者に請求を行うことが必要です。
なお、カーペットについて、借主に原状回復義務があるとした場合の対象となる範囲について、カーペットは、洗浄等で落ちない汚れ、傷の場合、1部屋単位、経過年数については、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定します。「Qフローリング・カーペット」をご参照下さい。

⑳壁、天井

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テレビや冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみについて、清掃してもきれいにならない。原状回復費を請求されたが支払う必要はあるか。

原則として支払い義務は無いものと考えられます。ガイドラインでは、テレビ、冷蔵庫等の後部壁面のいわゆる電気ヤケは、「通常の使用ととらえるのが妥当と考えられる。」とされています。

【解説】
「ガイドライン」で、テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)は、借主が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられ、貸主の負担となるものと整理されており、借主は原状回復費を負担する必要は無いのが原則であると考えられます。
なお、壁に貼ったポスターや絵画の跡、エアコン(借主所有)設置による壁のビス穴や跡、クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)、壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)等も同様に借主が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられ、貸主の負担となるものと整理されており、借主は原則として原状回復費を負担する必要は無いと考えられます。

カビ、シミ

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結露からカビが発生し、清掃してもきれいにならない。原状回復費を請求されたが支払う必要はあるか。

結露を貸主に通知もせず、かつ拭き取るなどの手入れを怠っていたような場合には、原則として原状回復費用を支払う必要があると考えられます。

【解説】
「ガイドライン」では、「結露が発生しているにもかかわらず、貸主に通知もせず、かつ拭き取るなどの手入れを怠り、壁等を腐食させた場合には、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いと考えられることから、借主に原状回復義務が発生し、借主が負担すべき費用の検討が必要となる。」と整理されています。つまり、結露の要因は様々であり、建物の構造上の問題であることなどもありますが、貸主への通知を行わず、かつ、結露を放置したことにより拡大したカビやシミである場合には、原則として原状回復費を支払う必要があることになりますので、貸主ともよく話し合う必要があります。
借主に原状回復義務があった場合、対象となる単位は、壁(クロス)の場合、㎡単位が望ましいのですが、借主が毀損させた箇所を含む一面分までは貼り替え費用を借主負担としてもやむをえないと「ガイドライン」には記載されていますので、貸主とよく相談することが必要です。経過年数については、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定します。

タバコ等のヤニ、臭い

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壁紙にタバコの臭いが染みついていると原状回復費を請求されたが支払う必要はあるか。

ガイドラインでは、「壁紙にタバコの臭いが染みついている状態というのは、通常の使用による汚損を超えるものと判断される場合が多いと考えられる。」とされており、原状回復費を支払う必要があるものと考えられます。

【解説】
壁紙にタバコの臭いが染みついている状態というのは、「ガイドライン」では、通常の使用による汚損を超えるものと判断される場合が多いと考えられることから、借主に原状回復義務が発生し、借主が負担すべき費用の検討が必要となると整理されています。
なお当該賃貸物件で喫煙等が禁じられていた場合には、用法違反にあたるものと考えられ、これによって発生した損害を賠償する責任が発生する場合もあります。
借主が原状回復に応じる場合、タバコ等のヤニや臭いについては部分補修が困難であることから、クリーニングまたは貼り替えが必要となります。経過年数については、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定します。

くぎ穴

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自作で棚を設置するため壁にくぎを打っていた。壁に穴があるため原状回復費が必要といわれたが支払う必要はあるか。

ガイドラインでは、下地ボードの貼り替えが必要な程度のものであれば、「通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いと考えられる。」とされており、原状回復費を支払う必要が生じるものと考えられます。くぎ穴の程度を確認することが必要です。

【解説】
自作で棚を設置するためにくぎ穴を開けた場合、「ガイドライン」では、程度にもよりますが、下地ボードの張替えが必要な程度のものであれば、「通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いと考えられる。」とされており、原状回復費を支払うことが必要となる場合があると考えられます。
借主に原状回復義務があった場合、対象となる単位は、壁(クロス)の場合、㎡単位が望ましいのですが、借主が毀損させた箇所を含む一面分までは貼り替え費用を借主負担としてもやむをえないとされていますので、貸主と良く相談することが必要です。経過年数については、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定します。

㉑建具

網戸の張替え

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特に破損等はないが網戸を張り替えるため、原状回復費が必要といわれたが支払う必要はあるか。

ガイドラインでは、特に破損等のない網戸を張り替えるのは、次の入居者を確保するための化粧直し、グレードアップに相当すると考えられており、原状回復費の支払いは不要であると考えられます。

【解説】
特に破損等のない網戸を張り替えるのは、次の入居者を確保するための化粧直し、グレードアップに相当すると考えられ、原状回復費の支払いは原則として不要であると考えられます。

ガラスの入れ替え

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地震によってガラスにひびが入ってしまった。退去直前であるため、このまま退去したいが、ガラスの修理代は支払う必要はあるか。

ガイドラインでは、「自然災害による損傷について借主に責任は無いと考えられる。」とされており、修理代は原則として支払う必要がないものと考えられます。

【解説】
地震によってできたガラスのひびは、自然災害による損傷であり、借主に責任はなく、通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられ、ガラスの修理代は原則として支払う必要はないものと思われます。

ペットによる傷

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ペットがドアをひっかいてしまい傷がついている。この傷について、原状回復費が必要といわれたが支払う必要はあるか。

ガイドラインでは、ペットがドアをひっかいてしまってできた傷については、明らかに通常の使用による結果とはいえず、「借主負担と判断される場合が多いと考えられる。」とされており、原状回復費の負担を求められる場合があります。

【解説】
ガイドラインでは、「特に共同住宅におけるペット飼育は未だ一般的ではなく、ペットの躾や尿の後始末などの問題でもあることから、ペットにより柱、クロス等に傷がついたり臭いが付着している場合は借主負担と判断される場合が多いと考えられる。」とされており、ペットがドアをひっかいてしまってできた傷については、原状回復費の負担を求められる場合があります。
なお当該賃貸物件でペットの飼育等が禁じられていた場合には、用法違反にあたる可能性もあり、これによって発生した損害を賠償する責任が発生する場合もあります。逆に明示的にペットの飼育等が可とされていた場合には、軽度の傷であれば通常損耗の範囲と言える場合があるかもしれませんので、契約条件を良く確認した上で貸主とも良く相談することが必要です。
借主に原状回復義務があった場合、対象となる単位は、ドアの場合、1枚単位となりますので、取替が必要となります。経過年数については、耐用年数経過時点で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定します。

㉒設備、その他

鍵の取り替え

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退去時に鍵の取り替え費を請求されたが支払う必要はあるか。

ガイドラインでは、「入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題であり、貸主の負担とすることが妥当と考えられる。」とされており、原則として鍵の取り替え費は支払う必要がないと考えられます。

【解説】
鍵の破損や紛失がないのであれば、入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題であり、借主が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられることから、原則として鍵の取り替え費は支払う必要がないと考えられます。
逆に借主が鍵を破損したり、紛失したことによって鍵を取り替えるような場合には、借主の費用負担となることが多いようです。
貸主の費用で取り替える場合、シリンダーの交換となります。鍵の破損や紛失の場合、経過年数は考慮せず、交換費用相当分の全額を借主が負担することになります。

ハウスクリーニング代

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退去時に部屋全体のクリーニング代が必要であるといわれた。支払う必要はあるか。

ガイドラインでは、「借主が通常の清掃(具体的には、ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り、換気扇、レンジ周りの油汚れの除去等))を実施している場合は、次の入居者確保のためのものであり、貸主負担とすることが妥当と考えられる。」とされています。ただし、台所周りの油汚れやすす、水周りの水垢やカビ等について、「使用期間中に、その清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合は、借主の善管注意義務違反に該当すると判断されることが多いと考えられる。」とされており、手入れが悪く発生、拡大したと考えられる場合は借主負担ともなりますので、貸主とよく話し合うことが必要です。

【解説】
借主が通常の清掃(具体的には、ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水周り、換気扇、レンジ周りの油汚れの除去等)を実施している場合であれば、クリーニングは次の入居者を確保するための化粧直しであると考えられ、原則として支払う必要はありません。もっともガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れやすす、風呂・トイレ・洗面台等の水垢やカビ等については、借主のその後の手入れ等管理が悪く発生、拡大したと考えられ、借主の善管注意義務違反に該当すると判断されることが多いことには留意が必要です。そのため、台所回りの油汚れやすす、水回りの水垢やカビ等が目立つ場合には、貸主ともよく話し合うことが必要です。
通常の清掃を実施していない場合等、借主の費用でクリーニングを行う場合、クリーニングを行う部位ごともしくは住戸全体を単位として行います。クリーニングについては、その対象について経過年数は考慮されません。

㉓退去の事前告知

退去の事前告知(借主一方からの解約等の場合)

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借主から一方的に解約等を行う際、借主から退去に際し、事前告知は必要か。

借主が一方的に契約を解約し、退去をする場合、事前告知が必要か否かは、契約期間の定めの有無によります。

【解説】
借主の一方的な意思により退去する場合、事前告知が必要か否かは、賃貸借契約における契約期間の定めの有無、特例の有無、定期建物賃貸借契約であるのかにより異なります。
なお、賃貸住宅標準契約書では借主からの退去に関する事前告知に関しては30日前と定められています。
また、退去の事前告知の方法は当事者間の合意に基づき行われます。

(1)期間の定めがない場合
期間の定めがない賃貸借契約の場合には、原則として、借主から、解約の3ヶ月前に解約申入れをすることにより、契約を終了することになりますので(民法617条1項2号)、3ヶ月前の事前告知が必要です。

(2)期間の定めがある場合
 1)期間満了による退去では、借家の場合、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に貸主に対して更新をしない旨の通知をすれば、期間満了時に終了します(借地借家法26条1項。借主からの通知には正当事由は不要です。)。
 2)期間内に解約をする権利を留保している場合には、期間の定めがない場合と同様、原則として解約の3ヶ月前に解約申入れをします(民法618条)。

(3)特約がある場合
なお、予告期間について3ヶ月以外とする特約がある場合は、不当に長い期間でない限り、原則として特約に従うことになります。※参考1
また、期間の定めがある場合で、途中解約を留保しない特約がある場合には、契約期間満了まで解約できないことになります。

(4)定期建物賃貸借における例外
定期建物賃貸借においては、一定の条件下では、解約権を留保していなくても、1ヶ月の申告期間の後、退去することができます。
具体的には、床面積が200㎡以下の居住の用に供する建物の賃貸借の場合、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の借主が建物を自己の生活の本拠として使用するこ とが困難となったときは、1ヶ月間の申告期間の後に解約することができます(借地借家法38条5項)。
なお、この規定は強行規定であり、条件が成り立つ場合には、たとえ3ヶ月の申告期間が必要という特約があったとしても、無効となるため、1ヶ月前に申告すれば解約が可能です。

※参考1 3ヶ月よりも短い特約に関しては有効と考えられますが、3ヶ月よりも長い場合、どの程度から不当といえるかは、この点について基準を明確にした判例もないため、個別具体的な検討が必要と考えられます。

<参考>
(乙からの解約)
第11条 乙は、甲に対して少なくとも30日前に解約の申入れを行うことにより、本契約を解約することができる。
2 前項の規定にかかわらず、乙は、解約申入れの日から30日分の賃料(本契約の解約後の賃料相当額を含む。)を甲に支払うことにより、解約申入れの日から起算して30日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

退去の事前告知に関する特約について

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就職に伴い3月末に賃貸アパートを退去する予定である。退去の事前告知を行ったところ、貸主から契約書に記載してあるからと、書面での提出を要求された。書面で提出する必要があるか。

退去の事前告知の方法に関する特約は原則有効ですので、書面での提出が必要となります。

【解説】
退去の事前告知の方法に関しては、当事者間の合意が基本となりますので、特例がある場合には、原則有効となります。
ただし、指定様式が必要な場合でも、口頭で連絡した際、貸主から、提出が必要な書式を渡されることが一般的と考えられます。

㉔借主からの一方的な解約等における違約金について

借主からの一方的な解約等における違約金について

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契約期間中に借主から一方的に解約等を行う場合、残期間家賃等の違約金を支払う必要性はあるか。

適切な申告期間のもと留保された解約権を行使した場合には支払う必要がありませんが、その他の場合は、原則支払う必要があります。

【解説】
(1)借主に解約権等がある場合
一定の申告期間後の契約期間途中における解約権を留保した場合等、借主に一方的な解約権や更新を拒絶する権利がある場合には、その権利が前項①のQ1において述べた適切な期間をおいて行使された場合には、違約金を支払う必要はありません。
ただし、定めた期間に解約予告をしなかった場合には、借主の債務不履行となり、契約上で定められている違約金(民法420条3項)を支払う必要があります。

(2)借主に解約権がない場合
途中解約権を留保していない場合には解約出できないので、基本的には、残期間の家賃等を支払う必要があります。ただし、残期間の家賃等を違約金とする場合に、金額が不当に高い場合には消費者契約法9条1号が適用される可能性があり、これが適用される場合にはこのような特約等は無効となり、借主が支払う違約金は「平均的な損害額」で良いことになります。「平均的な損害額」の 算出に当たっては、貸主が次の借主を見つけるまでに必要な期間が考慮されることが多いですが、標準化された算出方法があるわけではなく、個別具体的な検討が必要となります。
なお、賃貸借契約上で途中解約権について定めがない場合に、途中解約権を留保したと考えられるかどうかは、この点について基準を明確に示した判例がないため、個別の事情によることになりま す。

㉕入居条件の不履行による解約

入居条件の不履行による解約

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入居前までに修繕するという約束で契約したのに修繕がなされていない。解約は可能か。

解約権を留保している場合には、貸主に解約権に基づく解約の申入れができます。また、貸主は修繕した状態で使用収益させる義務を負うのにこれを履行していないのですから、債務不履行に基づく解除あるいは損害賠償請求(引越代等)をすることも可能と考えられます。

【解説】
解約権を留保している場合には、解約権に基づく解約が可能です。
解約権を留保しない場合であっても、入居条件の不履行により借主の建物の利用を妨げるときには、債務不履行として、解除をすることも可能であると考えられます。また、債務不履行が認められる場合には、損害賠償請求を行うことで、引越代等を請求することも可能であると考えられます。「⑤重要事項説明」をご参照ください。

入居条件としていた修繕が実施されていないことによる解約

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部屋の下見をした際、部屋がたばこ臭く、台所やお風呂も汚れが目立った。口頭ではあったが、不動産仲介業者が、入居までに、部屋の壁紙の貼り替えと床の掃除、台所や風呂についてもクリーニングをするというので、契約した。しかし、入居日に部屋にいってみたら、全く修繕もクリーニングもなされていない。解約できるか。また、このたばこ臭い部屋に入ることは嫌なので、ホテルに泊まり、荷物も引越業者の倉庫預かりとしてもらった。これらの費用を負担してもらえるか。

債務不履行に基づく解除が可能であると考えられます。また、損害賠償請求(引 越し代等)も可能と考えられます。

【解説】
修繕が建物を使用する上で必要であり、また、契約の条件となっているため、貸主の債務不履行が認められると考えられます。そのため、債務不履行に基づく、契約の解除や損害賠償も可能であると考えられます。ただし、口頭でした約束を証明することは困難な場合があります。

㉖貸主からの解約や更新拒否による退去請求

貸主からの解約や更新拒否による退去請求

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貸主から退去を要求された。退去しなくてはならないだろうか。

貸主側に解約を要求する正当事由がある場合には、然るべき予告期間の後に解約し退去する必要があります。正当事由の成立に関しては、個別具体的な検討が必要となります。

【解説】
(1)期間途中での解約の場合(期間の定めのない契約も含む)
貸主からの期間途中での解約権を留保した場合や期間の定めのない契約の場合には、借地借家法27条1項に基づき、貸主は6ヶ月の期間を置くことで、一方的に解約することができます。ただし、借地借家法28条により、貸主からの一方的な解約は、正当事由、つまり、賃貸借を終了させ明渡し を認めることが、賃貸借当事者双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照らし妥当と認むべき理由(最高裁判所判決昭和29年1月22日民集8巻1号207頁)がある場合に限定されます。
正当事由の有無は、建物の貸主及び借主が建物の使用を必要とする事情、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況、財産上の給付の申し出(立ち退き料)を総合的に考慮し、決定されます(借地借家法28条)。建物の賃貸借に関する従前の経過としては、更新料の支払いの時期や有無や貸主の家賃不払いの状況等が考慮され、建物の現況としては、建物の老朽化の程度や修繕の必要性が考慮されます。
なお、立ち退き料は補助的な一因に過ぎず、金銭の提供のみをもって、正当事由が具備されることはありません(最高裁判所判決昭和46年11月25日民集25巻8号1343頁)。
また、総合的な考慮の一因であるため、立ち退き料の算定手段について、明確な基準はなく、個別具体的な検討が必要です。「⑧更新の定義」をご参照下さい。

(2)更新の拒否
期間満了による退去では、借家の場合、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に借主に対して更新をしない旨の通知をすれば、期間満了時に終了します(借地借家法26条1項)。
ただし、貸主からの一方的な契約期間終了後の更新の拒否に際しては、借地借家法28条により、更新拒否ができるのは、(1)と同様に正当事由がある場合のみに制限されます。

建物の老朽化に伴う貸主から借主への立ち退き請求

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建物の老朽化に伴う建替えのため、大家から立ち退き請求があった。確かに、築50年以上が経過しており、至る所に無理がきており、補修ではなく建替えが必要なのは分かるが、ここに住み続けたい。どうしても退去しなくてはならないか。

貸主からの一方的な解約が可能かは、正当事由が成立するかによります。建物の老朽化も正当事由を考慮する際の一要因ではありますが、他の要因も加えた総合的な考慮が必要ですので、ADR機関等、法律の専門機関に相談することが望ましいと考えられます。

㉗借主が退去期限を守れない場合

借主からの退去日の延期

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借主が退去日を延期することは可能か。

契約期限によります。契約期間内であれば、延期は可能ですが、契約期間後であれば、一方的な延期はできません。ただし、賃貸借契約では当事者間の合意が尊重されますので、まずは貸主に事情を話し相談することが考えられます。

【解説】
退去日が契約最終日であるかが重要となります。退去日が契約最終日でない場合には、契約期間内への延期は新たな負担なく可能です。
ただし、実態としては、退去日が契約最終日であることが多く、この場合には、契約期間後への延期となるため、一方的な延期はできず、不法占拠となります。

(1)契約期間内
契約期間中は借主には建物を使用する権利があり、退去日は貸主に退去予定の日を連絡しただけにすぎないため、契約期間内であれば、延期は可能です。

(2)契約期間後
契約期間の終了と同時に、建物を使用する権利も当然消失します。そのため、契約期間後にも居住を継続すると、その期間は不法占拠に当たり、使用損害金等損害賠償の請求対象ともなりえます。

退去期限の延長

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賃貸住宅を本日退去する予定であったが、急に体調不良になったため、退去日を3日ほど遅れさせられないか。

賃貸借契約では当事者間の合意が尊重されますので、まずは貸主に事情を話し相談してみると良いでしょう。

【解説】
貸主が同意、承諾してくれれば延長は可能ですので、まずは、貸主と話し合うことが大切です。貸主がどうしても納得してくれない場合、退去日を契約期間後に変更すると、不法占拠に当たるため、使用損害金等損害賠償の要求を受ける可能性があります。ただし、不法占拠に当たる場合でも、貸主の自力救済は制限されます。

㉘借主からの退去予告の撤回

借主からの退去予告の撤回の可否

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借主からの退去予告は撤回できるか。

原則、一方的な撤回はできません。ただし、賃貸借契約では当事者間の合意が尊重されますので、事情がある場合は、貸主に相談することが考えられます。

【解説】
契約の解除の意思表示は取り消せません(民法540条2項)。そのため、契約満了の場合であろうと、契約の途中解約であろうと、契約期間終了後は不法占拠になるため、使用損害金等損害賠償の請求対象ともなりえます。
ただし、次の入居者がまだ決まっていない場合等、貸主と交渉し、新規契約や双方の合意による解約の取り消し等が考えられますので、まずは相談してみると良いでしょう。

契約期間途中での退去予告の撤回

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4月から3年契約でアパートに入居したが、もっと安い物件を見つけ、7月に不動産仲介会社に「9月15日に退去する」と書面で連絡した。しかし、9月になって、入居予定だった物件の実態が仲介業者の説明と大きく異なることが発覚し、入居を取りやめた。退去を撤回し、引き続き現在の住宅に住み続けたいと思っているが、退去を撤回することは可能だろうか。

一度行った契約の解約の意思表示は一方的な意思では撤回できません。次の借主が決まってない場合等には、継続して居住できる可能性もあるので、改めて契約が可能か等について貸主に相談してみることが考えられます。

㉙退去後の連絡先

退去後の連絡先

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退去に際し、貸主に転居先の連絡先を教える必要はあるか。

残務整理のために必要な範囲の連絡先は教える必要があると思われますが、特約がない限り、教える義務まではないと考えられます。

【解説】
退去後の連絡先に関しては、賃貸借の契約に含まれず、借主に義務は発生しません。そのため、原則として教える義務まではありません。ただし、敷金が未精算である場合や、家賃の滞納がある場合等、退去後も、貸主から連絡を取る必要があると考えられる場合には、賃貸借契約から生じている権利義務関係が残っているといえますので、特段の理由がなければ連絡先を教えたほうが良いでしょう。
また、特約に退去後の連絡先を教えることが借主の義務として記載されている場合には、契約自由の原則に従い、教えなければなりません。

退去後の連絡先を教える必要はあるか。

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賃貸マンションの退去手続きを進めていたところ、宅配便の転送等を理由に、転居先の連絡先等を教えるよういわれた。必要性をあまり感じないため、教えたくはないのだが、断っても良いだろうか。

特約がない場合、教える義務はないと考えられます。ただし、敷金の精算、最終月の家賃支払い等、実際に連絡をとる必要がある場合、その連絡手段等を話し合っておく必要があると考えられます。

【解説】
「Q退去後の連絡先」の通りです
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